【コラム】富樫鉄火のグル新 第359回 ウクライナと「左手」(3)

「ウィトゲンシュタイン」と聞いて、多くのひとは、哲学者、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインを思い出すだろう。
 だが20世紀前半、ヨーロッパで「ウィトゲンシュタイン」といえば、哲学者ルートヴィヒではなく、その兄でピアニストの「パウル・ウィトゲンシュタイン」(1887~1961)のほうが、ずっと有名だった。

 わたしがそのことを明確に知ったのは、2010年に邦訳刊行された『ウィトゲンシュタイン家の人びと――闘う家族』(アレグザンダー・ウォー著、塩原通緒訳、中央公論新社刊→現・中公文庫/原著2008年刊) を読んでからだった。
 この本は、書名通り、ウィトゲンシュタイン家を描くノンフィクションだが、大半が、ピアニストのパウルを描いている。なにしろ書き手が、イギリスの大作家、イーヴリン・ウォーの孫で、音楽批評家・作曲家でもあるだけに、すこぶる面白い。それこそ韓流ドラマのようなエピソードが次々に展開する。近年、これほど興味深く読んだ音楽家の評伝はなかった。

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