【コラム】富樫鉄火のグル新 第354回『動物農場』ウクライナ語版

 ジョージ・オーウェル(1903~1950)の寓話小説『動物農場』は、1945年にイギリスで刊行された。
 農場で、動物たちが「革命」を起こし、農場主のジョーンズ氏を「追放」、動物社会を樹立する。リーダーはブタのスノーボールとナポレオンだった。
 動物たちは、リーダーの指導の下、「平等」社会を目指し、日々、労働に励むが、どうもおかしい。収穫した食糧がきちんと分配されている気配がない。猛犬たちが「秘密警察」のように監視している。リーダーたちは陰で贅沢かつ安穏とした生活をおくっているようだ。やがてリーダー間で「抗争」が発生し、スノーボールは「追放」され、ナポレオンの「独裁政治」が確立する。

 要するに、ロシア革命による帝政崩壊~ソ連成立~スターリンの恐怖政治……を、農場に仮託して描いているのである。いうまでもなく、「ジョーンズ氏」がニコライ二世、「スノーボール」がトロツキー、「ナポレオン」がスターリンである。

 いまでは寓話小説の傑作として知られているが、1945年の刊行当初は、それほどの評価は得られなかった。ほかの国でも、すぐには翻訳刊行されなかった。
 ところが、なぜか「ウクライナ語版」なるヴァージョンがあって、早くも1947年11月に出ている。そしてオーウェルは、この「ウクライナ語版」だけに、かなり長い序文を寄せているのだ。
 しかし当時、ソ連の構成国だったウクライナで、このような本が刊行できたのだろうか。

 実はこの版は、ウクライナ国内で刊行されたものではない。

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