■今すぐに役立つ指揮テクニック~顧問先生と学生指揮者のための~

Text:五十嵐 清

指揮者は奏者(の集合体)に自分の意思を的確に伝え、演奏してもらわなければ音楽が表現できません。オーケストラで唯一直接音を出せない音楽(演奏)家です。
演奏中は言葉を発することができませんので、正確に自分の欲しい音(音楽)を奏者に伝えなければなりません。そのために奏者との意思伝達と疎通(コミュニケーション)を図ることができる、確かな「バトンテクニック」が必要です。

しかし、顧問先生や学生指揮者は、今すぐに奏者の前に立って指揮をしなくてはならないため、何年もかけてじっくり指揮のレッスン(勉強)をすることか難しいと考えられます。そこで、今すぐに役立つ必要最低限のバトンテクニック(間接運動)をわかりやすく解説し、日ころの合奏練習からも上達でき自信をもって指揮ができるテクニックを伝授します。きっと最高の音楽を奏者と共に聴衆に届けられることでしよう。

(いろいろ能書きや硬いこと話していますが、奏者と音楽を楽しむことに心がけてください)

基礎(右手)
①等速運動
・時計方向に「均等」に円を描く。
・1秒に1回転、均等に
②脱カ
・頭の上から、腕など力を抜いて一気に落とす。
(重力加速度を感じる)
③リフト
・掌(手のひら)を上向きで、へその前から目の高さまで打ち出す。
(前腕の引き上けや跳ね上ける筋肉を使い、初速(カ)を与えて持ち上げ、減速と頂点(落下点)を感じる)
④バウンド
・掌を立て(90度回転)親指の爪を上にして、上下方向で②脱力と③リフトを連続して行う。
・同じく③リフトと②脱力の順で連続して行う。
⑤加減速運動
・④の動作を①円運動にあてはめて、加速減速のある円を描く。

1. 基本の位置(Neutral/へそ前) (石手)
・肩幅程度に両足を広ける。
・左右の足はあまり前後の距離を取らない。
・脇を締める。
・肘を支点に拳(こぶし)を「へそ」の前にする。(肩に力を入れず突き出さない)
・指揮棒を持つ(握る)
・手首を回転させ、親指の爪が上向きにする。
(どの拍でも爪は見えるようにする)
・指揮棒は腕の延長上と意識する。

2. 叩き(点を表現)「かたい」
直線的な動きで、加速減速を伴い、点と点を意識して拍を瞬間的(硬く)に明確するテクニック。
→明確なテンポ、アクセント、スタッカート、鋭さ、リズム、ビート、スピードなどを表現。
<図形・ポイント>
・直線と鋭角的な打点と位置
・打点後の裏拍「ト( & )」の位置と脱カ
・腕全体ではなく、肘から先の前腕や手首での運動
・カまない
・指揮棒を固く強く握り過ぎない
・図形を大きくしすぎてテンホか揺れない
・全ての拍やフレーズをがむしゃらに振らない

1 ) 2拍子(上下運動)
①<予備位置>基本位置(へそ前)
②<予備運動(ブレス) >中央頭上まで上げる(減速)
③<点前> ②位置より基本位置まで垂直に下ろす(加速)
④ <点>基本位置で上に叩く(一拍目/強拍)
⑤<点後> ③と同じ経路を胸まで(半分)上げる(減速)
⑥<点前> ⑤位置より基本位置まで下ろす(加速)
⑦<点>基本位置にて叩く(ニ拍目/弱拍)
⑧ <点後>同一経路を頭上まで上げる(減速)
以降③~⑧の繰り返し

2 ) 2拍子(左右運動)
① <予備位置>基本位置(へそ前)
②<予備運動(ブレス) >左頭上まで上げる(減速)
③<点前> ②位置より基本位置まで斜めに下ろす(加速)
④<点>基本位置で鋭角に叩く(一拍目/強拍)
⑤ <点後>反対右側に右肩まで上げる(減速)
⑥ <点前> ⑤位置より基本位置まで斜めに下ろす(加速)
⑦ <点>基本位置にて鋭角に叩く(ニ拍目/弱拍)
⑧ <点後> ③の経路を左頭上まで上げる(減速)
以降③~⑧の繰り返し

3 ) 3拍子
①<予備位置>右脇腹
②<予備運動(ブレス) >中央頭上まで上げる(減速)
③<点前> ②位置より左脇腹位置に斜めに下ろす(加速)
④<点>左脇腹位置にて鋭角に叩く(一拍目/強拍)
⑤<点後>更に左上向きに左肩(胸)まで上げる(減速)
⑥<点前> ⑤位置より基本位置まで斜めに下ろす(加速)
⑦ <点>基本位置で鋭角に叩く(ニ拍目/弱拍)
⑧<点後>更に右上向きに右肩(胸)まで上げる(減速)
⑨<点前> ⑦位置より右脇腹位置まで下ろす(加速)
⑩<点>右脇腹位置にて鋭角に叩く(三拍目/弱拍)
⑪ <点後>中央頭上まで上ける(減速) 以降③~⑪の繰り返し

4 ) 4拍子
①<予備位置>右脇腹または基本位置(へそ前)
②<予備運動(ブレス) >中央頭上まで上げる(減速)
③<点前> ②位置より基本位置まで垂直に下ろす(加速)
④ <点>基本位置で上に叩く(一拍目/強拍)
⑤<点後> ③と同じ経路を胸まで(半分)上げる(減速)
⑥<点前> ⑤位置より左脇腹位置に斜めに下ろす(加速)
⑦<点>左脇腹位置にて鋭角に叩く(ニ拍目/弱拍)
⑧<点後>更に左上向きに左肩(胸)まで上げる(減速)
⑨<点前> ⑧位置より基本位置まで斜めに下ろす(加速)
⑩く点>基本位置で鋭角に叩く(三拍目/中強拍)
⑪<点後>更に右上向きに右肩(胸)まで上ける(減速)
⑫<点前> ⑩位置より右脇腹位置まで下ろす(加速)
⑬ <点>右脇腹位置にて鋭角に叩く(四拍目/弱拍)
⑭ <点後>中央頭上まで上げる(減速) 以降③~⑭の繰り返し

3. 平均運動(線を表現)「やわらかい」
曲線的な動きで、等速に近くなった線を意識して、拍と拍を平均的に一定の時間で結ぶテクニック。
→流れる、静か、穏やか、歌うような、やわらかい、レカートなどを表現。
<図形・ホイント>
・脇を開け身体からある程度離れた位置。
・腕全体(肩から)を動かし弧を描く。
・指揮棒先が腕の延長上を(再度)意識する。
・リズム感、フレーズ感、曲の方向性を失わない。
・テンホ・時間を常に意識する。
・折り返し点(裏拍)で尻尾をつけない。(余計な動作を入れない)

4. 杓い(しやくい) (点と線を表現)「かたいとやわらかいの中間」
曲線的な動きで、加速減速を伴い、曲線上に点=拍を通過点として示し、重みを感じ させるテクニック
・「叩き」のような鋭角な打点を示さなので、比較的アクセント鋭くない音に使う。
・「平均運動」のような曲線を描くが、加速と減速が明確であるので、加速の最速点に重店のある打点、減速の頂点に裏拍が示される。
→和音、深く重い音、レガ一トの中のアクセントなどを表現。
<図形・ホイント>
・身体に近い位置(ホジション)。
・加速と減速の差が大きい、叩きに近いに運動。
・弧を描いて手の重みを感じ、さらに最速で通過する点。
・裏拍「ト」の位置は、十分に減速した点であるが停止はしない。
(折り返し的点)
・上下運動は直線運動なので「杓い」ではないが便宜上入れる。
・柄杓(ひしやく)で水をすくう。金魚すくいなどのイメージ。
・プランコの加速減速(スピード)の感覚。

5. 実践的ハトンテクニック
今すぐに楽曲を指揮しなければならない。そんな時に
1) 立ち姿
・肩幅よりやや狭い程度に両足を広げる。
・左右の足はあまり前後の距離を取らない。
・胸を張り、頭を上体に乗せて、お腹を突き出すような感じで安定感を出す。
・曲想やダイナミクスにより上体の伸縮や前かがみ、反りなどを工夫する。
・欲しい音や楽器の方向に目線や身体を向け、合図(会話)できるような上半身の動きと身体のバランス。

2) 右手:テンポやビート感など「時間」を表す。
・図形の描く範囲・大きさ(フレーム)で曲の速さ、曲想やダイナミックスを表現。
→ズーム機能と考え工夫する。例えは、
a)高さは頭からへそ、横幅は拳が両肩ラインの50cm四方のフレーム範囲、肘は身体から15~2〇cmくらい離れた位置で図形を描く。
ダイナミックス. mf~ f、テンホ.中庸~ゆっくり
b)25cm四方程度以下のフレーム範囲で図形を描く。
ダイナミックス: p、テンポ:全般
明るい曲想では、顔の前。
落ち着いた曲想では、喉から胸の間。
悲しく暗い曲想では、胸下から腹の間。
など
・腕全体(肩)、前腕(肘)、手(手首)、指揮棒先(指)で振るかを決める。
( )は支点になるところ。
この時、支点となる部位を身体からどのくらい離すかも決める。(肩を除く)
・指揮棒を握って「親指爪の向き」を、明るい、広がり感、軽い、進行感、早いなど前向きの曲想の場合は上向き。暗い、内面的、重い、慎重、ゆっくりなど内向的の曲想の場合は斜め向きにして、曲想の変化を表現。

3) 左手.奏者とのタイミングなど会話、ダイナミックスの変化、曲想の表現など「空間」を表す。
・奏者(楽器)や新たなメロディーラインの入り(切り)のタイミング。
・ダイナミックスの変化を表現
上向きはfやクレッシェンド、下向きはpやデクレッシェンド。
手の高さや腕の伸び縮みでも細やかなダイナミックスが表現できる。
・曲想ニュアンスの表現
握っているか、開いているか。それも「きつく」「柔らかく」か。そして、
「胸の前」「顔の前」などのキーワードを組み合わせて、最も曲想を表現できるかを考え工夫する。

最後にもう一度、指揮者はオーケストラで唯一直接音を出せない演奏(音楽)家です。
奏者(の集合体)に自分の欲しい音(音楽)を的確に伝え、演奏してもらわなければ音楽が生まれません。そのためには奏者とのコミュニケーションが大切で、さらに信頼関係が必要不可欠です。楽曲を愛し研究し、奏者を尊重し、音楽的にも人間的にも魅力のある存在でいてくたさい。上手なバトンテクニックだけでは良い指揮者になれません。人間性に溢れ心を語る音楽性をもった指揮者を目指してくたさい。

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