■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第163話 汐澤安彦、Shion定期を振る

▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第140回定期演奏会(2022年1月22日、ザ・シンフォニーホール)

▲▼Osaka Shion Wind Orchestra 第140回定期演奏会(同、楽団提供)

『大阪へ、ようこそ!』

『なかなかご縁がありませんでしたので…。』

2022年(令和4年)1月22日(土)、大阪のザ・シンフォニーホールで開催された「Osaka Shion Wind Orchestra 第140回定期演奏会」の終演後、全日本学生吹奏楽連盟理事長の溝邉典紀さんとふたりで、当日の指揮者、汐澤安彦さんの楽屋を表敬訪問したとき、真っ先に交わした挨拶だ。

筆者は、この34年前の1988年4月16日(土)、東京の杉並区和田にあった普門館で開催したロイヤル・エア・フォース・セントラル・バンド(The Central Band of the Royal Air Force)と東京佼成ウインドオーケストラによる《日英交歓チャリティーコンサート》の主催者で、そのときの東京佼成単独ステージの指揮者が汐澤さんだった。加えて、それ以降も、解説者として東芝EMIの録音セッションなどでご一緒する機会があった。《参照:第10話“ドラゴン”がやってくる!

一方の溝邉さんも、汐澤さんを学生吹奏楽連盟のコンサートや講習会に客演指揮者や講師として招いていた。

最初の挨拶を交わした後、すぐ旧知のふたりが久しぶりに訪ねてきたことに気づいた汐澤さんは、終始表情もにこやかで会話もはずみ、例えば先述の《日英交歓チャリティーコンサート》に話題を振ったら、『あのときは英語がわからなくてね。いろいろ助けてもらいました。』とすぐ返ってきたし、東芝EMIのセッション後、ご自宅まで車でお送りする車中、面白い話をいろいろと聞かせてもらい、そのことに話が及ぶと、懐かしそうに『あれは、新座(のセッション)でしたね。』と20年も30年も以前のことについても、それはそれは鮮明に覚えてらっしゃる。

傍らでふたりのやりとりを耳を澄ませて聞いていた溝邉さんも、『昔のこと、本当によう(よく)覚えてはりますねー。』と舌を巻くようなシーンもあった。

さて、そんな終演後の盛り上がりはさておき、《初共演、巨匠、汐澤安彦》というコピーがポスターやチラシ上に踊ったこの日の公演は、大阪市直営だった大阪市音楽団当時を含め、汐澤さんがShionを振った初のコンサートとなった。

日本最長の歴史をもつプロ・ウィンドオーケストラとウィンド・ミュージックのドライビング・フォースとして数多くのレコードやCDをソニーや東芝、コロムビアからリリースしたマエストロとの共演が過去に一度もなかったというのは、日本の吹奏楽史上の七不思議の一つのようなもので、当然ながら、筆者が慣れ親しんだ大阪のホールで汐澤さんの音楽を愉しんだのもこの日が初めてだった。

後から振り返ると、このコンサートのプロジェクトは、Shion理事長でバス・トロンボーン奏者の石井徹哉さんとの恒例の“夜のミーティング”で、筆者が何気なく『汐澤先生をお招きしたら?』と口にしたのが事の発端だったように思う。

その夜、“汐澤先生”という単語に反応した石井さんは、『学生のときにレッスンを受けたことがありまして,,,。』と言って、早速ウィンドのレジェンドに関心を寄せた。その後、連絡をとったら、すぐ返答があったことから、今度の初顔合わせが実現したのだという。

もっとも、当初は、2020年(令和2年)6月7日(日)の第131回定期演奏会(ザ・シンフォニーホール)として企画されたものの、折からのコロナ禍により一旦中止となっていた。(参照:《第124話 ウィンド・ミュージックの温故知新》)

その結果、日をあらためて第140回定期として開催されたこの日のプログラムは、第131回定期に予定されていた曲目をそっくりそのまま移したもので、以下のように、すべて懐かしい管弦楽曲からの吹奏楽編曲で構成されていた。

・キャンディード序曲
(レナード・バーンスタイン)クレア・グランドマン編

・ハンガリー狂詩曲第2番
(フランツ・リスト)クラーク・マカリスター編 / アルフレッド・リード校訂

・歌劇「ローエングリン」から “エルザの大聖堂への行列”
(リヒャルト・ワーグナー)ルシアン・カイエ編

・歌劇「イーゴリ公」から “韃靼人の娘の踊り”“韃靼人の踊り
(アレクサンドル・ボロディン)汐澤安彦編

・祝典序曲 作品96
(ドミトリ・ショスタコーヴィチ)ドナルド・ハンスバーガー編

・狂詩曲「スペイン」
(エマニュエル・シャブリエ)マーク・ハインズリー編

・序曲「1812年」 作品49
(ピョートル・チャイコフスキー)メイヒュー・L・レイク編

以上は、曲順も含めてすべて汐澤さんの提案で組まれ、長年にわたってレパートリーとして練りこまれ、愛演されてきたものばかりだった。

そして、汐澤人気も手伝ったのだろう。楽団直接販売分のチケットは見事に完売。会場には久しぶりに顔を合わせたような平均年齢の高いファンも多く見られ、あちらこちらに挨拶の輪ができる華やいだムードが漂っていた。

そして迎えた本番。しっかりとした足取りでステージに登場した汐澤さんの音楽は、メリハリが効き、ひじょうに立体的で、何よりも大音量になっても決してうるさくなく、耳あたりのいい美しいサウンドが響いていた。しかも全曲を暗譜で指揮。オケ原曲の吹奏楽演奏を聴いているはずなのに、随所でソロ・ワークが浮き出し、時折り繰り出すホルンやトロンボーンの咆哮もひじょうに効果的で、聴衆はいつの間にか汐澤ワールドに引きこまれていき、会場を大いに湧かせることになった。

さすがはレジェンドだ!ステージで見せる笑顔もすばらしい!!

『汐澤さん、元気ですね!』

隣りの席で聴いていた溝邉さんも正直驚いたというその指揮ぶりは、84歳という年齢をまるで感じさせない生き生きとしたパフォーマンスだった。

すばらしい音楽会だった!

そして、万雷の拍手に応えて、

・主よ、人の望みの喜びよ
(ヨハン・セバスティアン・バッハ)アルフレッド・リード編 / 汐澤安彦監修

・ティコティコ
(ゼキーニャ・ジ・アブレウ)岩井直溥編

の2曲がアンコールとして演奏され、コンサートは大団円!

もっと聴いていたい!

楽屋を退室する際、『いいバンドです!』というマエストロに大きく頷いた筆者は、思わず『また、大阪に来てください!』と叫んでいた!!

▲▼プログラム – Osaka Shion Wind Orchestra 第140回定期演奏会(2022年1月22日、ザ・シンフォニーホール)

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