【コラム】富樫鉄火のグル新 第339回 丸谷明夫先生の書評

 丸谷明夫先生は、大の読書家だった。枕元に本を積んで、片っ端から読んでいた。
 「面白そうな本があったら、なんでもいいから教えてや」
 だから、わたしが関わった本は、必ず送っていた。するといつも、数日で読み終えて、感想を電話で伝えてくれた。その律義さ、速読ぶりには、いつも敬服していた。時には、逆に、ご自身で気に入った本を送ってきてくれることもあった。
 “感想電話”は、ほとんどは、数分だったが、あるとき、長々と30分以上も感想を述べてくれた本があった。
 それは、『俺の喉は一声千両 天才浪曲師・桃中軒雲右衛門』(岡本和明著、新潮社/2014年6月刊)。
 「いや~、おもろい本やねえ。わたし、あまり詳しくないけど、ABCラジオの早朝番組『おはよう浪曲』なんかは、よく聴いてたわ」

 桃中軒雲右衛門とは、明治から大正にかけて活躍した、大浪曲師である。斯界では「浪聖」とまで称され、いまでも浪曲師たちは、「先生」と呼んでいる。
 そんな人物の生涯を、演芸評論家の曾孫が書いた評伝だが、丸谷先生は、えんえんと感想を述べるなか、たいへんうまく、本書のポイントを言い当ててくれた(後述)。
 この瞬間、丸谷先生がたいへんな「本読み」のプロであることを知った。

 さっそくそのことを、知己の産経新聞の文化部記者氏に話した。すると「面白いですねえ。吹奏楽の名物先生に、浪曲本の書評を書いてもらいましょう」となってしまった。
 恐る恐る丸谷先生にお願いの電話をすると、半ば迷惑そうな笑い声をあげて「まあ、おなじ誕生日のあなたのお願いやから、仕方ないわなあ」と、引き受けてくれた。
 実は大阪府立淀川工科高校吹奏楽部の創立日とわたしの誕生日は、年月日までおなじなのだ。つまりわたしは、淀工吹奏楽部とまったくの同年なのである。

 その書評は、2014年8月3日付で掲載された。

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