【コラム】富樫鉄火のグル新 第337回「異郷」の地での共生

 『バルトーク晩年の悲劇』(アガサ・ファセット、野水瑞穂・訳/みすず書房)が、またもや復刊された。
 本書は、1973年に「亡命の現代史」シリーズ全6巻中の一巻として刊行され、1978年に単行本で再刊行された。
 その後、品切れで見かけなくなると、「書物復権」フェアのたびに重版復刊されてきた(いまはなき「東京国際ブックフェア」に合わせての復刊が多かった)。
 それが「新装版」となって、またもや復刊した(「新装版」といっても、カバー・デザインの写真や色味が変わった程度で、本文組みなどは同じだと思う)。
 それにしても、1973年邦訳初刊の本が、ほぼ半世紀たってもまだ生きていること自体、驚きとしかいいようがない(原著は1958年刊)。

 これは、ハンガリーの大作曲家、バルトーク・ベーラ(1881~1945)が、ナチス台頭を避け、アメリカで過ごした最後の5年間の記録である(バルトーク自身はユダヤ系ではなかったが、ナチスや社会主義体制を嫌っていた)。
 著者は、かつてハンガリーの音楽院で学んだころから、バルトークを敬愛してきた女性だ。アメリカに移住後、あとから亡命してきたバルトーク夫妻と知り合った。特にディッタ夫人の信を得て、生活の世話などしているうちに、家族同然の付き合いをするようになった。

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