【コラム】富樫鉄火のグル新 第334回 《汽車は8時に出る》

 ギリシャの作曲家、ミキス・テオドラキス(1925~2021)が9月2日に亡くなった(享年96)。
 日本では新聞訃報欄の隅に小さく出ただけだが、ヨーロッパでは大ニュースで、ギリシャのカテリナ・サケラロプル大統領や文化大臣は「私たちはギリシャの魂の一部を失った」との追悼声明を発表、3日間の服喪(半旗)となった。

 彼のすごさは、極東にいるわれわれには、理解しにくい。
 ひとことでいってしまえば、ミキスは「闘う作曲家」である。第二次世界大戦時、レジスタンスに参加し、ファシズムと闘った。戦後、ギリシャ内戦や軍事独裁政権時代も、徹底的に対抗した。何度逮捕されても転向せず、パリに逃れて民主化運動を支えながら、音楽活動をつづけた。社会主義政権となってからは、国会議員や文化大臣もつとめた。
 自分を枉げず道を貫くひとに、太古より激動に翻弄されてきたヨーロッパのひとびとは、心から敬意を表する。
 
 そんなひとだから、ややこしい音楽を書いたのかというと、そうではない。
 有名なのは映画音楽で、『その男ゾルバ』『Z』『戒厳令』『セルピコ』『魚が出てきた日』などの社会派ドラマ、『エレクトラ』『トロイアの女』『イフゲニア』などのギリシャ悲劇映画などに名スコアを提供している。
 そのほか、7つの交響曲や、管弦楽曲、歌劇《メデア》《エレクトラ》《アンティゴネー》、バレエやカンタータ、歌曲……現代音楽の作曲家で、これほど、一般人に聴かれる音楽を、幅広いジャンルで書いたひとは、いない。
 
 ニュースでは、映画『その男ゾルバ』の作曲者であることばかりが報じられていた。
 だが、ミキスの真骨頂は、「うた」にあると思う。

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