【コラム】富樫鉄火のグル新 第332回 マリヤ・ユージナとスターリン(4)

 英仏合作映画『スターリンの葬送狂騒曲』は、2017年に公開された(日本は翌年公開)。監督のアーマンド・イアヌッチは、もともとコメディを得意とするひとらしい。
 映画は、原作のユーロマンガ(BD=バンドデシネ)を、ほぼそのままなぞっている。まるでマンガがそのままシナリオになったようだ(実際に、当初のマンガ原作台本を参照して脚本化したらしい)。
 政治スリラーでありながら、全編に漂うコメディの香りは、演出の妙もあるが、原作のマンガ精神を再現することに徹した成果だと思う。
 ただ、映画そのものはブラック・パロディとして面白くできているが、ユーロマンガの映像化であることを理解していないと、ひとによってはバカバカしく感じるかもしれない。

 ここでユージナを演じているのは、ウクライナ出身のオルガ・キュリレンコである。映画『007 慰めの報酬』(2008)でボンド・ガールに抜擢され、一躍、世界に名を売った女優だ。
 さすがに本物のユージナのようなアクの強さはないが、気の強いピアニストをなかなかうまく演じていた。創作とはいえ、“スターリンを死に追いやった女”を演じるとは、ご本人も夢にも思わなかっただろう。

 そのキュリレンコが演じたマリヤ・ユージナによる“モーツァルトのレコード事件”も、映画では、原作マンガどおりに描かれている。そのためか、口うるさい評論家に「史実に誤りがある」と指摘され、ロシアでは一部で上映禁止になる騒ぎとなった。
 あらためて述べるが、“モーツァルトのレコード事件”は1947年の出来事で、スターリン逝去は1953年である。このユーロマンガ/映画は、2つの出来事を、1953年のある一夜に起きたことにして、ユージナの書いた手紙が、スターリンの脳内出血を引き起こしたことになっている。

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