昨年8月から歌舞伎座公演が再開しているが、まだ本来の興行形態にはもどれていない。再開当初は4部制で、各部、1時間前後の一幕興行だった。その後、3部制になったが、どれも見取り(抜粋公演)ばかりだ。たまたま今月の第一部が『加賀見山再岩藤』一本で、ひさびさに通し上演かと思ったが、これとて、「岩藤怪異篇」と題した見取りである。
そんななか、とうとう、「長編スペクタクル」の「通し上演」が登場した。それは、尾上松也の「自主公演」「新作初演」で、会場はなんと、“小演劇の聖地”下北沢の「本多劇場」である。
これが、たいへん面白い内容だったので、大急ぎでご紹介しておきたい。
演目は『赤胴鈴之助』(戸部和久:脚本/尾上菊之丞:振付・演出)。往年の漫画・TV・映画で一世を風靡した作品の歌舞伎化である。松也の父・六代目尾上松助は、かつてTVで赤胴鈴之助を演じていたので、父子二代にわたる鈴之助役者となった。