【コラム】富樫鉄火のグル新 第324回 閉会式の『東京物語

 五輪閉会式で少々驚いたのは、冒頭、日本国旗入場のバックに、映画『東京物語』(小津安二郎監督、昭和28年)のテーマ音楽(斎藤高順作曲)が流れたことだった。
 この映画は、広島・尾道に住む老夫婦が、東京で成功している(はずの)息子や娘たちを訪ねて、はるばる上京する話である。昭和28年当時、尾道から東京へ行くのは、いまでいえば海外旅行に行くようなものだった。
 だが、医者の長男も、パーマ屋の長女も、毎日の生活で精一杯、いまさら老いた両親の相手などしていられず、冷たくあしらう。
 老夫婦は淡々と尾道へもどり、母親は疲労のせいもあってか、急死する。
 要するにこの映画は、「あこがれの東京に裏切られる」話なのだ。
 それだけに、テーマ音楽も、どこか寂し気で、老夫婦を慰撫するようなムードがある。
 そんな音楽が、閉会式で、しかも国旗入場にあわせて流れたので、妙な違和感を覚えたのだ。

 その後、選手入場では、昭和39年の東京五輪入場行進曲《オリンピック・マーチ》(古関裕而作曲)が流れたが、「どこかちがう」ように感じたひとが多かったのでは。
 あそこで流れたのは、「管弦楽版」に編曲されたヴァージョンである。
 古関裕而は、あの曲を「吹奏楽」のために書いたのだ。当然、吹奏楽ならではのパワフルな響きは失われる(会場での生演奏ではなかったせいもあるかもしれない)。
 さらに、後段になると、同曲をサンバやポップス風に編曲した、「醜い」音楽に変貌していた。古関裕而も天上で苦笑していたのではないか。

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