■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第152話 大栗 裕作品集とともに

▲CD – 吹奏楽名曲コレクション31 大栗 裕作品集(東芝EMI、TOCZ-9195、1993年)

▲TOCZ-9195 – インレーカード

『今そのタイトルを作るとしたら、まずぱ楽団さんに500枚買い取ってもらうことが前提になりまして、その際、ウチの販売用を70枚か80枚か製造させていただくことになります。』

2018年(平成30年)、Osaka Shion Wind Orchestra理事長&楽団長の石井徹哉さんのリクエストで、ユニバーサル ミュージック ジャパンに問い合わせた際、電話に応じた担当者からの回答だ。

このとき、追加プレスの可否を問い合わせたタイトルとは、日本の吹奏楽CD史上、空前のセールスを記録した大阪市音楽団(Shionの民営化前の楽団名)演奏の「大栗 裕作品集」(東芝EMI、TOCZ-9195、1993年)のことで、当時、Shionは、同年末の12月6日(木)に、あましんアルカイックホール(兵庫県尼崎市)で開催する「オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ創立95周年 大栗 裕 生誕100年記念特別演奏会」に向けて準備を進めていた。石井さんのリクエストは、その時までに、自楽団CD史上最高のセールスを記録し、新聞にも大きく取り上げられたそのCDの再プレスが可能かどうかをレコード会社に打診してみて欲しいというものだった。(参照:《第66話 大栗 裕:吹奏楽のための神話》)

石井さんからこの話を聞いた時、正直これはかなりハードルが高い話かも知れないなと感じた。なぜなら、1993年にこのCDをリリースした東芝EMIが、2007年にイギリスのEMIに売却されてEMIミュージック・ジャパンとなり、そのイギリスEMIも2012年にアメリカのユニバーサル傘下に入り、電話を入れた頃には、合併をへてユニバーサル ミュージック合同会社(ユニバーサル ミュージック ジャパン)という日本法人に変わっていたからである。当然、人も会社の所在地も変わっていた。

そんなわけで、この時点の同社には昔なじみの担当者は皆無。筆者がかけた電話も、各部をたらいまわしになった挙句やっと目指すクラシック担当につながった。しかし、さすがは世界最大のミュージック・グループを自負する“ユニバーサル”のことだ。電話がつながると、単刀直入に用件を切り出したが、先方の関心の無さと情報の薄さは、感動的ですらあった。恐らく、いつも世界のスーパースターの話題作のようなものばかりを追いかけているからかも知れないが、吸収合併した旧東芝盤の扱いにはあまり熱量が感じられなかった。問い合わせた内容が、彼らがまるで知らない日本人作曲家の作品を在京以外の楽団が演奏した吹奏楽のCDだったからかも知れないが……。

そして、自分達の作ったものじゃなかったからか、盛んにPCをカタコトやりながら、『このタイトルは、過去2度発売されていますが、作るとすると、社名も変わりましたので印刷物も作り直さないといけませんし。どう計算しても、500枚買取が前提となります。』とのかなり冷たいお言葉!

しかし、当方は、このCDが過去3度リリースされたことを知っていたので、相手のデータベースへのアクセスが不完全なことだけは、瞬間的にわかった! しかも、少し深層まで入って“どれくらい売れたか”も確認していないようだった。

【初回発売】:吹奏楽名曲コレクション31 大栗 裕作品集
朝比奈 隆、木村吉宏指揮、大阪市音楽団
(東芝EMI、TOCZ-9195、リリース:1993年1月20日)

【第2回発売】:新・吹奏楽名曲コレクション ウィンド・スタンダーズ Vol.14 ジャパニーズ・バンド・ミュージックIV 大栗 裕作品集
(東芝EMI、TOCF-6018、リリース:1999年2月24日)

【第3回発売】:大栗 裕作品集
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90011、リリース:2009年4月22日)

実は、ユニバーサルに電話した2018年は、“大栗 裕生誕100周年”であるとともに“朝比奈 隆生誕110周年”で関西の音楽界はかなり盛り上がっていた。そこで、CDの2曲が朝比奈さんの指揮であることも話したが、『ウチは朝比奈音源がほとんど無いので』と、取り付く島もない。これでは埒があかないと感じた筆者は、先方の出した条件だけを再確認して、『楽団に伝えて、彼らが承諾するなら、また連絡する。』と言って電話を切った。

その後、石井さんに結果を知らせると、彼も“500枚買取条件”には、さすがに口アングリで計画断念。こうして、ユニバーサルからの“大栗 裕作品集”の4度目のプレスは成就しなかった。

ここで話は少し脱線する。

実は、「大栗 裕作品集」には、以上の3回のほかに、もう1回“幻のプレス計画”があった。それは、このCDが市場から消えてしまっている状況をとても残念に思っていた「バンドパワー」の鎌田小太郎さんが、2008年にEMIジャパンからライセンスを得て“オリジナルどおりに復刻する”という話を持ちかけたときのことだった。そして、この話は、当初、交渉も順調に進んで、残すは最終合意と契約を交わすばかりという段階までこぎつけたが、そこで、突然白紙になった。理由は、EMIジャパンが過去のデータを再度チェックして、このCDが“実はひじょうによく売れたアイテム”だったことに気づき、“そんなに売れるものなら、自社で販売する”という方向に潮目が変ったからである。

ただ、ここで、EMIジャパンがすばらしかったのは、一旦話を断った小太郎さんに、かつて東芝EMIがリリースした吹奏楽CDの内容をしっかり取材して、「大栗 裕作品集」第3回発売と同時に、市場から消えていた以下のCDも再リリースされることが決まったことである。

・ロバート・ジェイガー作品集
渡邊一正指揮、大阪市音楽団
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90012、リリース:2009年4月22日)

・アルメニアン・ダンス全曲
フレデリック・フェネル指揮、東京佼成ウインドオーケストラ
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90013、リリース:2009年4月22日)

・ウィンド・オーケストラのための交響曲[1]
木村吉宏指揮、大阪市音楽団
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90014、リリース:2009年4月22日)

・ウィンド・オーケストラのための交響曲[2]
木村吉宏指揮、大阪市音楽団
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90015、リリース:2009年4月22日)

・ウィンド・オーケストラのための交響曲[3]
ハインツ・フリーセン指揮、大阪市音楽団
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90016、リリース:2009年4月22日)

・ウィンド・オーケストラのための交響曲[4]
木村吉宏指揮、大阪市音楽団
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90017、リリース:2009年4月22日)

・ウィンド・オーケストラのための交響曲[5]
木村吉宏指揮、大阪市音楽団
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90018、リリース:2009年4月22日)

・リアル・フェネル
フレデリック・フェネル指揮、東京佼成ウインドオーケストラ
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90019、リリース:2009年4月22日)

・リアル・フェネル[II]
フレデリック・フェネル指揮、東京佼成ウインドオーケストラ
(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90020、リリース:2009年4月22日)

外野から眺めていると、一般的に、商業レコード会社では、規模が大きくなればなるほど、自社が築いてきた音楽財産の中身を知らないという、そういった事件が起こりやすい。冒頭にお話ししたユニバーサルの電話対応もその典型的な一例である。

しかし、なにはともあれ、このときの小太郎さんが起こしたアクションが、「大栗 裕作品集」の3度目のリリース(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90011)につながったことは確かである。誰がなんと言おうが、これは、日本の吹奏楽の世界への小太郎さんの大きな貢献である。

そして、この3度目のリリースによって、筆者にも出番が回ってきた。

小太郎さんの橋渡しで新たに担当となったEMIジャパンの森 真理子さんと打ち合わせた結果、いずれはやらねばと思っていた「大栗 裕作品集」のプログラム・ノートの全面的アップデートが実現する運びになったのである。

第43話 大栗 裕「仮面幻想」ものがたり》でもお話ししたように、1992年に「大栗 裕作品集」の企画がスタートした当時、大栗作品のノートは、まるで整備されていなかった。そのため、何ヵ月も大阪市内を駆けずり回って関係者に直接取材し、約3ヵ月をかけてノートを執筆。しかし、〆切りまでに積み残したテーマも当然あり、CDリリース以降も断続的に調査を継続した結果、新たな事実がいくつも判明。第3回発売のプログラム・ノートにそれらを盛り込むことができた。

この結果、TOCF-90011のオビのバックに小さく(解説改訂版)と表記された。

余談ながら、1999年の「大栗 裕作品集」第2回発売のときには、ノートのアップデートはできなかった。というより、初回発売の旧盤を廃した第2回発売自体、東芝EMIからまるで知らされていなかった。筆者がそれを知ったのは、何人かの大阪市音楽団のベテラン・プレイヤーに捕まって、突然『なんで、ジャケットを変えたんや!!何の意味もない、しょうもない(つまらない)ジャケットにしやがって!!』と大きな声で叱責されたときだった。晴天の霹靂とは、まさにこのことだ。

初回発売時のオリジナルのジャケットには、大栗さんの最後の吹奏楽作品となった『仮面幻想』のモチーフとなった奈良の春日大社所蔵の新鳥蘇(しん・とりそ)という舞楽面の写真を大社の許諾をとりつけた上、個人的に1万円を奉納して使わせてもらった。それが、『まるで、大栗さんが笑うてはる(笑っている)顔みたいや!』と市音のメンバーには大好評で、「大栗 裕作品集」は、レコード会社の商業CDには違いないが、市音の人々は自分たちの代表作としていろいろな機会をとらえて広報してくれた。

また、作曲者の奥さん、大栗芳子さんにも、このジャケットはたいへん気にいってもらい、『友人に贈りたい。』と言われ、かなりの枚数を筆者を通じて注文されている。

知らぬこととはいえ、東芝EMIは、作曲者につながるそんな人々の気持ちを踏みにじっていたのである。

なので、EMIミュージック・ジャパンによる第3回発売に際しては、まず最初に担当の森さんにジャケットをオリジナルどおりに戻してもらうようにお願いした。

事情を知った森さんは、即座にそれに同意!!

ノートをアップデートした「大栗 裕作品集」は、こうして旧日の歓びを取り戻すことになった。

▲CD – 新・吹奏楽名曲コレクション ウィンド・スタンダーズ Vol.14 ジャパニーズ・バンド・ミュージックIV 大栗 裕作品集(東芝EMI、TOCF-6018、1999年)

▲TOCF-6018 – インレーカード

▲CD – 大栗 裕作品集(EMIミュージック・ジャパン、TOCF-90011、2009年)

▲TOCF-90011 – インレーカード

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