1975年に邦訳刊行以来、(増補改訂版も含め)現在まで増刷がつづき、読まれているガイドブックがある。『クヮルテットのたのしみ』(エルンスト・ハイメラン、ブルーの・アウリッヒ共著、中野吉郎訳/アカデミア・ミュージック刊)だ。
書名のとおり、「弦楽四重奏」のガイドなのだが、正確にいうと、鑑賞者のためではなく、弦楽四重奏を楽しんでいるアマチュア演奏家のためのガイドである。序文から察するに、原著初刊は1936年のようだ。
わたしは、吹奏楽(管打楽器)には、子供のころから親しんでいるが、弦楽器となるとあまり詳しくない。よって、日本に、そんなに「弦楽四重奏」を楽しんでいるアマチュアがいるのか、よくわからない。「毎週土曜日は、所属している市民吹奏楽団の練習があるんですよ」と言うひとにはよく会うが、「弦楽四重奏の練習があるので……」とは、聞いたことがない(わたしの交友が狭いだけかもしれないが)。
なのに、「アマチュアの弦楽四重奏愛好者のため」の、このようなガイドブックが、半世紀近くにわたって読まれつづけているのだ。あるひとは、「音楽大学で弦楽器を専攻している学生が、選曲の参考に読むのでは」と言っていた。たしかに内容は選曲ガイドが大半なのだが、前半の具体的なアドバイスも、なかなか面白い。