【コラム】富樫鉄火のグル新 第298回 柳の下のガイドブックたち(2)

 前回とりあげた、『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』(デイヴィッド・S・キダーほか著、小林朋則訳/文響社)の「音楽」欄について、「視点がシニカルというか皮肉たっぷりで、その突き放したような筆致に、時折含み笑いを禁じ得ない」と述べた。
 ああいうタッチを、「エスプリ」(軽妙洒脱)と呼ぶのかもしれない。「esprit」と、特にフランス語で流布しているところを見ると、フランス人お得意の分野なのだろう。
 そこで――「フランス」の、「エスプリ」ある「ガイドブック」といえば、やはり、〈文庫クセジュ〉だろう。

 原著は、戦時中にPUF(フランス大学出版局)によってスタートしたコンパクトな教養入門書で、いわば”フランス版岩波新書”である。シリーズ名〈クセジュ〉は、モンテーニュが『エセー』で述べた「Que sais-je?」 (私は何を知っているというのか?)から来ている(カバーにデザインされている)。
 邦訳版は、1951(昭和26)年より白水社から刊行されはじめた。2021年1月の新刊『ジュネ―ヴ史』(アルフレッド・デュフール著、大川四郎訳)で、通し番号が「Q1041」となっているので、もう1,000点を突破しているようだ(ただし目録上は、欠番=絶版や品切れが多い)。原著のほうは2018年の時点で4,000点を突破しているという。

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