第293回で、ヴィヴァルディが効果的に使われている映画を紹介した。
だが、クラシックさえ流せば映画に格が生まれるわけではなく、かえって逆効果になりかねないこともある。今回は、そんな映画をご紹介する(映画そのものがダメなわけではないので、ご了承を)。
2019年に、ルーヴル美術館で「レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年展」が開催された。準備に10年を費やした空前絶後の美術展で、日時指定のチケットは早くから完売、最終的に107万人の大記録を達成した。わたしの知己の美術ジャーナリストも、チケットが入手できず、地団駄を踏んでいた。
その美術展を、閉館後の深夜、接写撮影でじっくりカメラにおさめ、2人の学芸員が解説してくれる、美術ファン垂涎のドキュメント映画が『ルーブル美術館の夜/ダ・ヴィンチ没後500年展』である。下絵なども一緒に見せてくれるので、ダ・ヴィンチが、どのような考え方で作品に取り組んだのか、とてもよくわかった。「モナリザ」はもちろん、「聖アンナと聖母子」なども圧巻だった。
しかし……一瞬たりと睡魔に襲われることなく、この映画を最後まで観通したひとは、少ないのではないか。マスクで少々息苦しくなっている観客は、あちこちからかすかな寝息を立てていた。SNS上でも「寝てしまった」との感想が多い。おそらく近年、もっとも「居眠り率」の高い劇場映画だと思う。
理由はさまざまあろう。
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