2019年7月10~11日及び12月4~6日、ウェールズの首都カーディフのキャセイスにある聖テイロ教会でレコーディングされたコーリー・バンドの本格アルバム。プロデューサーは、アダム・ゴールドスミス、エンジニアは、ダニエル・ロックが担っている。
収録されているのは、イギリスのブラスバンド・レパートリーの中でも“クラシック”と言われるオリジナル曲が5曲。すべてが全英ブラスバンド決勝のために書かれた委嘱作で、定番レパートリーとして繰り返し演奏されてきた作品ぱかりだ。
冒頭のジョン・マッケイブ(1939~2015)の『クラウドキャッチャー・フェルズ』は、1985年10月6日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行なわれた「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピース(課題)として委嘱された作品で、タイトルは、デヴィッド・ライトの詩「コッカーマス」から採られている。連続して演奏される4つの楽章からなり、イギリス湖水地方バターデールの山岳地帯の自然美や情景を描写する深みのある詩的な音楽となっている。
ジョン・アイアランド(1879~1962)の『ダウンランド組曲』は、1932年10月1日、ロンドンのクリスタル・パレスで開催された「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピースとして委嘱された作品で、イングランド南東部のサセックス地方の丘陵地帯の情景を描写する4楽章構成の組曲だ。
3曲目のエドワード・エルガー(1857~1934)の『セヴァーン組曲』は、1930年9月27日、ロンドンのクリスタル・パレスで開催された「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピースとして委嘱された作品。それまでブラスバンド曲を書いた経験がなかったエルガーはピアノ・スコアまでを書き、ブラスバンド用のスコアリングをヘンリー・ギールに託したが、その際、ハ長調から変ロ長調に転調が行なわれた。しかし、エルガー没後かなりたってから、エルガーのオリジナル・ピアノ・スコアが発見されたことから、近年では、このCDと同じくエルガー自筆スコアに基づく演奏が行なわれるようになった。
エドマンド・ラッブラ(1901~1986)の『ヴァリエーションズ・オン・ザ・シャイニング・リバー』は、1958年10月25日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行なわれた「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピース(課題)として委嘱された作品。作曲家としても知られるフランク・ライトがブラスバンド用編曲を行なったが、これは前曲と同じ様な事情があった。大戦中のある夜、スコットランドのネス川の堤みを散策している最中、明るい月が川面に輝いている美しい情景を見たときの印象に触発されたテーマと6つの変奏からなっている。
フィナーレを飾るエリック・ボール(1903~1989)の『ハイ・ピーク』は、1969年10月11日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行なわれた「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピース(課題)として委嘱された作品で、“ラプソディ・フォー・ブラスバンド”の副題をもつ。アルプスのような最高峰を目指す登山者の姿を描くように“ビジョン”“願望” “上り坂”“達成”のセクションからなっている。太陽が輝く最高峰に到達するシーンは、多くのブラスバンド・ファンを興奮させてきたクライマックス・シーンだ。
すべてに情景があり、イギリス人の歌ごころに満ちている。教会での録音だけに、サウンド面も太鼓判! 全英ブラスバンド選手権がブラスバンドのオリジナル曲を発展させてきたことをまざまざと感じさせるすばらしいアルバムに仕上がっている。
【コーリー・バンド】
1884年、南ウェールズ屈指の炭鉱地帯として知られるロンザ・ヴァレー(Rhondda Valley)で結成されたウェールズの代表的ブラスバンド。当初はトン・テンペランス・バンドの名前で活動したが、1895年、演奏を聴いた同地の鉱工業の盟主、コーリー・ブラザーズ社の社長サー・クリフォード・コーリーからのスポンサードの申し出を受け、コーリー・ワークメンズ・バンドに改称。1920年には“チャンピオンシップ”セクションのステータスを得た。その後、炭鉱との関係が薄くなり、コーリー・バンドの名前で活動。1998年以降、スポンサー変更などにより、ジャスト・レンタルズ・コーリー・バンド~バイ・アズ・ユー・ヴュー・コーリー・バンド~バイ・アズ・ユー・ヴュー・バンドと改名を繰り返したが、2007年にバンド名に“コーリー”の名前を取り戻した。各選手権においても輝かしい成績を誇るが、近年においても、2000年に音楽監督に就任した世界的ユーフォニアム奏者ロバート・チャイルズ(Dr. Robert B. Childs)の指揮のもと、2000年、2002年、2007、2009年の全英オープン優勝、2000年の全英選手権優勝、2008-2010年のヨーロピアン選手権3年連続優勝、2009年のオランダ・ケルクラーデの第16回世界音楽コンクール優勝と、実力者ぶりをいかんなく発揮している。有名なフィリップ・スパークの『ドラゴンの年』は、コーリー・バンド結成100周年記念委嘱作だった。2012年5月、フィリップ・ハーパーが新音楽監督に就任した。
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■ランドスケイプス
演奏:コーリー・バンド
Lanscapes
【データ】
・演奏:コーリー・バンド(Cory Band)
・指揮:フィリップ・ハーパー(Philip Harper)
・発売元:ドイエン (Doyen)
・発売年:2017年
・収録:2019年7月10~11日、12月4~6日、St. Teilo’s Church, Cathays, Wales
【収録曲】
- クラウドキャッチャー・フェルズ/ジョン・マッケイブ【17:16】
Cloudcatcher Fells/John McCabe - ダウンランド組曲/ジョン・アイアランド【17:31】
A Downland Suite/John Ireland
第1楽章:プレリュード Prelude【4:59】
第2楽章:エレジー Elegy【4:21】
第3楽章:メヌエット Minuet【4:52】
第4楽章:ロンド Rondo【3:19】 - セヴァーン組曲/エドワード・エルガー【17:44】
The Severn Suite/Edward Elgar
第1楽章:イントロダクション Introduction【2:25】
第2楽章:トッカータ Toccata【4:05】
第3楽章:フーガ Fugue【3:41】
第4楽章:メヌエット Minuet【5:15】
第5楽章:コーダ Coda【2:18】 - ヴァリエーションズ・オン・ザ・シャイニング・リバー
/エドマンド・ラッブラ【9:35】
Variations on the Shining River/Edmund Rubbra - ハイ・ピーク/エリック・ボール【12:24】
High Peak/Eric Ball
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