■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第136話 ジェイガー:交響曲第3番《神のかがやき》日本初演

▲チラシ- 広島ウインドオーケストラ第54回定期演奏会(2020年10月24日、JMSアステールプラザ大ホール)

▲プログラムと演奏曲目 – 広島ウインドオーケストラ第54回定期演奏会(同)

2020年(令和2年)10月24日(土)、筆者は、山陽新幹線“のぞみ25号”に乗車。一路広島を目指した。市内、中区加古町のJMSアステールプラザ大ホールにおいて16時から開かれる「広島ウインドオーケストラ第54回定期演奏会」を聴くためだ。

演奏会は“オール ジェイガー プログラム”と副題がつけられ、最大の注目作は、何といっても当日に日本初演が行なわれるアメリカの作曲家ロバート・E・ジェイガー(Robert E. Jager)の交響曲第3番『神のかがやき』(Symphony No.3“The Grandeur of God”)だった。

指揮者は、同ウインドオーケストラ音楽監督の下野竜也さん。(参照:《第25話 保科 洋「交響曲第2番」世界初演》、《第134話 Shion 定期の再起動》)

作曲者のジェイガーは、1939年8月25日、ニューヨーク州ビンガムトンの生まれ。わが国でも、1963年の『シンフォニア・ノビリッシマ』(Sinfonia Nobilissima)がヒットし、他の多くの作品も広く取り上げられている。交響曲第3番『神のかがやき』は、1963年の交響曲第1番(Symphony No.1 for Band)、1976年の交響曲第2番『三法印』(Symphony No.2 “The Seal of the Three Laws”)についで書かれた3曲目の交響曲だ。(参照:《第20話 ジェイガー:交響曲第1番》)

しかし、我ながら情けないことに、この演奏会情報に気づいたのは、演奏会当日まで1ヶ月を切った2020年9月下旬のこと。また、ジェイガーは、同年夏に81歳の誕生日を迎えていたが、過去、手紙やメールのやりとりや、リクエストに応えてCDを送付するなど、長く交友のある作曲家だけに、その最新作の今度のナマ本番を聴き逃す訳にはいかなかった。

で、急にスイッチが入って、いつものように“弾丸”を決意!!

調べると、この交響曲が書かれたのは、2017年。世界初演は、2018年5月1日、アラバマにおいて、マーク・ウォーカー(Dr. Mark Walker)指揮、トロイ大学シンフォニー・バンド(Troy University Symphony Band)の演奏で行なわれた。同バンドは、トロイ大学最優秀の音楽専攻生が学ぶジョン・M・ロング音楽学校(John M. Long School of Music)の学生からオーディションで選ばれた55名から63名編成の優れたバンドで、当然、世界初演のパフォーマンスにも賞賛が贈られていた。交響曲第3番は、その後、初演があったその年の内に作曲者が大きな改訂を行なったことから、作曲年は“2017/2018”と両年併記されることになった。当然ながら、広島ウインドオーケストラの日本初演に際しては、作曲者から届けられた改訂後の楽譜が使われている。(作曲者は、これを改訂版初演としている。)

作品は、4楽章構成。イングランドのロンドン近郊エセックスのストラトフォードに生まれ、アイルランドのダブリンに没したイエズス会(カトリックの男子修道会)の聖職者ジェラード・マンリー・ホプキンズ(Gerard Manley Hopkins、1844~1859)が書きのこした「詩集(Poems)」(没後30年たった1918年に友人が草稿から刊行)に含まれる《God’s Grandeur(神のかがやき)》(1877年作)という一篇の詩にインスパイアーされている。この詩の作者ホプキンズは、1930年の「詩集」第二版の刊行後、広く知られるようになり、聖職者のひとりというだけでなく、英ヴィクトリア朝時代の詩人と位置づけられるようになった。

リサーチすると、19世紀に書かれたホプキンズの英文の原詩《God’s Grandeur》は、いろいろな書物や論文に掲出されていた。そこで、本話でもそのまま引用する。

The world is charged with the grandeur of God. 
 It will flame out, like shining from shook foil;
 It gathers to a greatness, like the ooze of oil
Crushed. Why do men then now not reck his rod?
Generations have trod, have trod, have trod;
 And all is seared with trade; bleared, smeared with toil;
 And wears man’s smudge and shares man’s smell: the soil
Is bare now, nor can foot feel, being shod.

And for all this, nature is never spent;
 There lives the dearest freshness deep down things;
And though the last lights off the black West went
 Oh, morning, at the brown brink eastward, springs
Because the Holy Ghost over the bent
 World broods with warm breast and with ah! bright wings.

その後、国内に日本ホプキンズ協会もあり、研究者による和訳や関連書籍もかなりの数が出版されていることがわかった。作品の元となった素材へのアプローチに関してはハードルが低いので、日本語でホプキンズの詩に触れて意味を噛み締めたい人は、ぜひとも直にそれらを参照されることをお薦めしたい。

オーシ!曲を聴く前の下調べとしては、これぐらいで充分だ!

チケットは、250席限定で発券とホームページにあったので、10月21日(水)、楽団事務局と書かれた携帯番号に直接予約電話を入れた。その時は、あいにく留守電だったので電話を切ると、しばらくして楽団の平林さんと名乗る人物から折り返しの電話がかかってきた。“練習の休憩に入った”という話だったので、恐らくプレイヤーさんなんだろう。そこで、ホームページの記載についての質問と空席状況を尋ね、座席を定めて当日窓口引き換えとした。このとき、2階27列の“13番”という座席番号が妙に気に入った。また、公演プログラムは、印刷物ではなく、まもなくダウンロード可能になるという話。正に楽団員によるセルフ・オーガナイズ感が漂うコンサートだ。

きっとバック・ステージには、いろいろな試行錯誤があるのだろう。

そして、演奏会当日の出発前、ダウンロードしたプログラムをプリントアウトする。のぞみ車中で読むと、そこには、交響曲第3番『神のかがやき』は、2014年に他界した作曲者が愛した妻への想い出に捧げられているという記述があった。

なんとドラマチックなんだろうか!

広島が近づくにつれ、気分がどんどん高揚していく!

演奏会場となったJMSアステールプラザ大ホールは、座席数が通常時1,200席(+身障者席4席)で、オケピット使用時には前5列の座席が収納されて1,091席(+身障者席4席)となる大ホールだ。地元広島のアウフタクトの録音エンジニア、藤井寿典さんに電話で尋ねると、ルートは、JR「広島」駅の南口から出る広島バス24号系統・吉島線が便数も多く最も便利だという。新幹線下車後、藤井さんの教示に素直に従って、南口ロータリーの乗り場にすでに停まっていた発車間際のバスに飛び乗り、ホール最寄りの「加古町」停留所へと向かう。所要時間はおよそ15分といったところで、ホールには、15時すぎに入った。

5月30日(土)に同ホールで予定されていた第53回定期演奏会(広上淳一指揮)がコロナ禍で延期された後、初めて開催される定期だけに、エントランスの応対は何かと手探り感が漂うが、まずはチケット代金を支払い、半券に住所を鉛筆で記入して自らもぎり、感染症予防対策のためのさまざまな関門もパスして無事に入場する。

コンサートは途中休憩なしの約1時間のプロと予告されていたが、指揮者の下野さんが曲間にマイクをとって、“紙に印刷したプログラムを用意できなかった”ことを聴衆に詫びながら、即席の解説者に変身。指揮者として感じた楽曲分析や解釈を聞かせてもらえたのは有意義でとても面白かった。しかし、そのため進行は間違いなく“押した”ようだったが、最後にアンコールとしてジェイガーが1978年の全日本吹奏楽コンクール課題曲として書いた『ジュビラーテ(Jubilate)』を快速テンポで決めて、17時20分頃に終演!!

核心の交響曲第3番『神のかがやき』も、作品、演奏ともどもオールド・ジェイガー・ファンを唸らせる仕上がりで、これをナマで聴けたことはたいへん大きな収穫となった!

この間、広島滞在は、僅かに3時間あまり!

オール・ジェイガー・プロによる演者の気持ちの入った音楽の宴は、心地よい余韻を残しながら大団円を迎えた!!

▲11月16日に届いた《特典CD》(BR-37010、制作:ブレーン、2020年)

▲同、インレーカード

▲同、レーベル盤面

▲CD送付挨拶文

「■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第136話 ジェイガー:交響曲第3番《神のかがやき》日本初演」への1件のフィードバック

  1. やはり樋口さんご来場頂けてたんですね。
    通路を挟んだ斜め前の席から「もしや、まさか」とマスク姿(全員ですが)の方が気になっておりました。
    休憩時間に携帯に掛けてみて確認…と開くと、ご自宅(?)の電話とFAX番号しか登録しておらず
    お話したい事ございました。今度、藤井さんに訊いといても宜しいでしょうか

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