■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第134話 Shion 定期の再起動

▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第132回定期演奏会(2020年9月19日、ザ・シンフォニーホール

▲プログラム – Osaka Shion Wind Orchestra 第132回定期演奏会(同)

▲同 – 演奏曲目

『みなさん、ようこそお越し下さいました。』

2020年(令和2年)9月19日(土)、ザ・シンフォニーホール(大阪市北区)で開催されたOsaka Shion Wind Orchestra(オオサカ・シオン・ウインドオーケストラ)第132回定期演奏会で、奏者入場の前、客電が落ちた中でひとりステージに立ったのは、同楽団のバス・トロンボーン奏者であると同時に楽団長、さらには運営母体の公益社団法人の理事長もつとめる石井徹哉さんだった。

石井さんは、千葉県佐倉市の出身。武蔵野音楽大学に学び、トロンポーンを前田 保、井上順平の両氏に師事。2004年(平成16年)、大阪市音楽団(市音)に入団し、その後、突如として吹き荒れた市音民営化の嵐、楽団史上最大の激動の時代を体験。2014年(平成26年)4月に民営化し、2015年3月16日に“Osaka Shion Wind Orchestra”(シオン)と名を改めたこの楽団を、2017年5月以降、理事長として束ねている。

だが、コロナ禍で日本全体のありとあらゆるものが自粛を求められた2020年、シオンも例外なく活動自粛を余儀なくされた。通常の演奏やリハーサルも軒並み中止となり、大阪市住之江区にある事務所も一時閉鎖された。

近年は、ザ・シンフォニーホールを中心に行なわれているシオンの定期演奏会も、3月14日(土)の第129回(指揮:渡邊一正)、4月23日(木)の第130回(指揮:フランコ・チェザリーニ)、6月7日(日)の第131回(指揮:汐澤安彦)が公演中止となった。(参照:《第124話 ウィンド・ミュージックの温故知新》)

シオンに限らず、自粛期間中、プロ奏者の多くは、原点に立ち戻ってエチュードを徹底してさらうなど、来る日も来る日もまるで音大生時代を思い出させるような毎日を過ごしながら、演奏再開の日に備えたと聞く。しかし、自宅に練習用スペースや設備がある人ばかりとは限らない。音楽家としてのモチベーションの維持も含め、この間の過ごし方は本当にたいへんだったと思う。

やがて、自粛要請の解除に伴い、シオンの事務所も6月22日(月)に完全再開。7月12日(日)の再始動後初のコンサート、題して「新型コロナウイルスに負けるな!Shion再始動 初陣!宮川彬良×Osaka Shion Wind Orchestra」をめざすことになった。

会場のザ・シンフォニーホールも、在阪の各演奏団体と意見を交換しながら、感染拡大予防のための施策に取り組み、手探りの試行錯誤がつづく中の本番となった。だが、6月26日(金)に“限定席数”だけ売り出したチケットはすぐに完売。楽団も奏者も、あらためて、ナマの音楽を愉しみたいファンの存在の大きさに気づかされることになった。

その翌月の8月、大阪城音楽堂で行なわれた夏の風物詩「たそがれコンサート」においても、事前電話申込制の入場整理券(限定数)は、アッという間に予約で一杯に。何時間も電話がつながらないこともあったというから、ファンの後押しは本当に凄かった!

そして、演じる側も聴く側も、誰もが経験したことのないそんな状況下で迎えた9月19日の「第132回定期演奏会」。それは、いろいろな意味でシオン定期シリーズの再起動の日として人々に記憶されることになるだろう!

指揮は、これが初共演となる下野竜也さん。鹿児島市出身で、鹿児島大学教育学部音楽科、桐朋学園大学音楽学部附属指揮教室などに学び、2000年、第12回東京国際音楽コンクール<指揮>で優勝、2001年、フランスの第47回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。2006年、読売日本交響楽団に初代正指揮者として迎えられ、2013年に同楽団首席客演指揮者に。シオン初共演時には、広島交響楽団音楽総監督、広島ウインドオーケストラ音楽監督、京都市交響楽団常任首席客演指揮者だった。かつて朝比奈 隆さんが音楽総監督をつとめていた頃の大阪フィルハーモニー交響楽団(大フィル)で初代指揮研究員(1997~1999年)だった時期もあるので、実は大阪とも縁のある指揮者である。大フィルを指揮し、『大阪俗謡による幻想曲』『大阪のわらべうたによる狂詩曲』ほかをレコーディングしたCD「日本作曲家選輯:大栗 裕」(Naxos、8.555321、2000年)が反響を呼んだことも記憶に新しい。(参照:《第25話 保科 洋「交響曲第2番」世界初演》)

プログラムに取り上げられた作品は、すべてウィンドオーケストラのために書かれたオリジナルで、この内、2曲がアメリカのシンフォニーだった!!

吹奏楽のための協奏的序曲 
(藤掛廣幸)

交響曲第5番「エレメンツ」
(ジュリー・ジロー)

交響曲第4番
(デイヴィッド・マスランカ)

この意欲的なプログラミングは、もちろん楽団と指揮者がアイデアを摺り合わせた成果だろうが、今回は、楽団をリードする石井さんの前向きなハートにかつての吹奏楽青年の下野さんが共鳴した。なんとなく、そんな気がする組み立てとなっている。

こんなことがあった。演奏会前年の2019年(令和元年)12月13日(金)、筆者は石井さんと、大阪市内なんばの某所で、恒例の“夜のミーティング”を持った。

意見交換がつづく中で、石井さんが『ほんといい曲なんです。』と言った曲があった。それがジュリーの“第5番”だった。

作曲者とは旧知の間柄だ。

石井さんの情報収集力に“なかなかやるなぁ”と思った筆者は、一年前の2018年(平成30年)6月19日(火)、オーストリアの作曲家トーマス・ドス(Thomas Doss)とともに訪れた武蔵野音楽大学ウィンドアンサンブルのリハーサルで聴いた曲、それが正にその“第5番”だったと言葉を返した。

“武蔵野”は、石井さんの母校だけに、表情に少し驚きが見え隠れする。

この訪問は、同ウィンドアンサンブル指揮者で名誉教授のレイ・クレーマー(Ray Cramer)氏の了解と、専任講師でクラリネット奏者の三倉麻実さん、演奏部演奏課主任の古谷輝子さんの力添えがあって実現した。トーマスの方は、前週の6月15日(金)、杉並公会堂(東京)で行なわれた「タッド・ウインドシンフォニー第25回定期演奏会」(指揮:鈴木孝佳)で日本初演された自作『アインシュタイン(Einstein)』のコラボレーションが主目的の来日だった。(参照:《第50話 トーマス・ドスがやってきた》、《第51話 ト―マス・ドス「アインシュタイン」の事件簿》)

武蔵野音楽大学ウィンドアンサンブルは、ちょうどその頃、2018年7月12日(木)、東京オペラシティ コンサートホールで行なわれる予定の「武蔵野音楽大学ウィンドアンサンブル演奏会(東京公演)」に向けてのリハーサルに入っていて、“太陽”“雨”“風”という3楽章構成の交響曲第5番『エレメンツ』もレパートリーの1つだった。

リハには、フルスコアも用意され、運がいいことに、ウィンドアンサンブルは“第5番”の全曲を練習。未知の作品をスコアを見ながらナマ演奏で聴くという、なんとも贅沢な展開となった。また、指揮者から奏者へのリマークもとても勉強になった。

そして、リハ後、トーマスは『このスコアはどこで買える?すぱらしい作品だ。』と言った。

筆者にとっても印象深い作品との出会いだったので、石井さんとの“夜のミーティング”においても、このとき現場で感じた感想をありのままに述べることができた。

話を元に戻そう。

こうして迎えたシオンの“第132回定期”は、ソーシャル・ディスタンスもあって、入場券は750席だけを発券。ホールスタッフによる入場時の検温、入場者がもぎったチケット半券をスタッフがもつ箱に投入、テーブルに積まれたプログラムを入場者自らが取り上げる、開演前や休憩中にコーヒーやワインを気軽に愉しめる“ザ・シンフォニーカフェ”もクローズ、楽団のグッズ販売もないなど、感染拡大予防のためのさまざまな規制があって少し面喰ったが、こればっかりは仕方ない。

演奏会それ自体に関して言うなら、それでも相当な数の熱心なファンが詰めかけ、とても聴きごたえのあるすばらしい音楽会となった。

個人的には、武蔵野リハで聴いたクレーマー、シオン定期で聴いた下野の両マエストロのジュリーのシンフォニーへのアプローチの違いがとても印象に残っている。これぞ、音楽を愉しむ醍醐味というべきか!

終演後、エントランス付近で市音元コンサートマスターで、くらしき作陽大学音楽学部教授の長瀬敏和さんと喋っているところに、石井さんが駆け込んできた。

石井:プログラム、短くなかったですか?

樋口:そんなことは感じなかった。充足感があったし。シンフォニー2曲だから。そう言えば、(長瀬さんに向かって)、昔、“指輪”(ヨハン・デメイの『指輪物語』)やることになったとき、みんな(長いって)怒ってましたよね。

石井:今では、当たり前になりました。

長瀬:木村(吉宏)さんと秋山(和慶)さん(の棒)で、2回やりました。(註:1992年5月13日(水)の第64回定期〈日本初演〉と2010年6月12日(土)の第100回定期。ともにザ・シンフォニーホールで。)

樋口:(長瀬さんの)ソプラノ(サクソフォン)のソロもよく覚えていますよ。

一同:(大きな笑顔)

シオン定期は、こうして語り継がれていく!

だから、音楽はおもしろい!!

▲Shion Times シオンタイムズ、2020 June、No.50

▲チラシ – たそがれコンサート2020(2020年7~8月、大阪市立大阪城音楽堂)

▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第129回定期演奏会(公演中止)

▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第130回定期演奏会(公演中止)

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