■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第124話 ウィンド・ミュージックの温故知新

▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第131回定期演奏会(2020年6月7日、ザ・シンフォニーホール、コロナ禍のため中止)

▲「シンフォニア」Vol.37(ザ・シンフォニーホール、発行:2020.1.10)

『今回初めてShionと共演することになりました指揮の汐澤安彦です。この演奏会では、吹奏楽版アレンジをきっかけにしてよく演奏されるようになったクラシックの作品をたっぷりとお聴きいただきます。Shionのパフォーマンスを最大限に引き出すコンサートになると思いますので、どうぞご期待ください。』(原文ママ)

コロナ禍がなかったら、2020年(令和2年)6月7日(日)午後2時から、大阪のザ・シンフォニーホールで行なわれていたはずの「Osaka Shion Wind Orchestra(オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ) 第131回定期演奏会」のために、同ホールの広報誌「シンフォニア」Vol.37(2020年1月10日発行)に寄せた指揮者、汐澤安彦さんのメッセージだ。

この初顔合わせは、全国的にファンの関心を呼び覚まし、筆者個人としても、とても楽しみにしていたドリーミーな企画だった。

筆者が、汐澤さんとはじめてご一緒する機会を得た現場は、1988年(昭和63年)4月14日(木)、東京・杉並の今はなき普門館だった。その日は、2日後の4月16日(土)に同ホールで開催する東京佼成ウインドオーケストラとロイヤル・エア・フォース・セントラル・バンド(The Central Band of the Royal Air Force)による《日英交歓チャリティーコンサート》の合同リハーサルの日で、汐澤さんは、東京佼成ウインドオーケストラ単独ステージの指揮者だった。(参照:《第10話“ドラゴン”がやってくる!》

結果的に、この《日英交歓チャリティーコンサート》は予想以上の成果を上げ、その翌日の4月17日(日)には、同じ普門館でロイヤル・エア・フォース(RAF)単独のコンサートを主催。もちろん、この日は汐澤さんの出番はなかったが、『バンクスさんの演奏を聴きたいと思って。』と、前日共演したRAFの指揮者エリック・バンクス(Eric Banks)の本番を聴くために一聴衆として来場され、『面白いですねー。“威風堂々”(第1番)のテンポがまるで違い、思ってたより速い。我々がいつもやってるのはもっと遅いので….。』などと語られたのをまるで昨日のことのように鮮明に覚えている。

その後も、東芝EMIのセッションなど、何度か接点があり、同社ディレクターの佐藤方紀さんが運転する車でお送りしたこともあったが、どこで調べたのか、『汐澤です。』といきなり自宅に電話がかかってきて楽譜の入手法の相談を受けたり、当方のラジオ番組を応援する葉書を頂いたりと、少々面喰った想い出もある。ただ、いつも感じたのは、話が分かりやすく面白いことと飽くなき探究心!!

なので、Shionで大阪に滞在されるなら、演奏会はもちろん、久しぶりに愉しい話を伺えるのではないかと、本当に心待ちにしていた。それなのに、コロナのやつめ!!

汐澤さんは、1938年(昭和13年)、新潟県上越市の出身。1962年に東京藝術大学器楽科を卒業し、1964年に同専攻科修了。トロンボーンを山本正人、指揮を金子 登の両氏に師事。1962年から8年間、読売日本交響楽団のバス・トロンボーン奏者をつとめ、その傍ら、桐朋学園大学で指揮法を齋藤秀雄氏に師事。1960年代半ばから指揮活動を始め、1973年に民音指揮コンクール第2位入賞。1975年に渡欧し、ベルリン音楽大学、カラヤン・アカデミーに学んだ。

オーケストラやオペラ、合唱のほか、東京吹奏楽団、東京佼成ウインドオーケストラ、シエナ・ウインド・オーケストラ、大阪府音楽団、フィルハーモニア・ウインド・アンサンブル、東京アンサンブル・アカデミー、東京藝術大学、東京音楽大学など、ウィンド・ミュージックのフィールドでもひろく指揮者として活躍。とくに、ソニー、コロムビア、ビクター、東芝、ファンハウスなどから毎年のようにリリースされたLPレコードやCDを通じ、ウィンドの最新レパートリーを日本中に紹介したマエストロとして知られる。これまで、Shion(シオン)を指揮したことがなかったというのが不思議なくらいだが、間違いなく、昭和~平成を通じた“ウィンド・ミュージックのドライビングフォース”であり、“レジェンド”だ!!

吹奏楽を指揮した初の商業レコードが登場したのは、1972年で、当時、レコード・ジャケットに印刷されていた指揮者名のクレジットは、結婚前の飯吉靖彦(いいよし やすひこ)。だが、その名は、同年リリースされた4枚のLP(ビクター、CBSソニーから各2タイトル)と1枚のEP(コロムビア)を通じ、アッという間に全国の吹奏楽ファンの知るところとなった。

この内、ビクターの2枚は、当時、脚光を浴びていた4チャンネル・ステレオ方式(参照:《第94話 エキスポ ’70と大失敗》)の実証も兼ね、イイノ・ホール(1970年11月10日)と普門館(1970年12月17日、1971年12月10日)で録音されたソースを活用した2チャンネル・ステレオ盤で、演奏は、東京佼成吹奏楽団(レコード上のクレジットは、“佼成吹奏楽団”)。先行盤の「双頭の鷲/バンド・フェスティバル」(ビクター、VY-1006、1972年1月新譜)は、山本正人指揮、東京シンフォニック・バンドの演奏とのカップリング盤、後発盤の「Pleasure for Band(バンドの楽しみ)- 1/バンド・フェスティバル」(ビクター、VY-1009、1972年8月新譜)は、汐澤/佼成の単独盤だった。

もともと4チャネルの実証を兼ねた録音だったので、アルフレッド・リード編の『アラビアのロレンス』(VY-1006)やグレン・オッサー編の『イタリアン・フェスティバル』(VY-1009)、シベリウスの交響詩『フィンランディア』(VY-1006、VY-1009)など、マーチやポップスからクラシックまで、ホーム・ミュージックとしても愉しめるレパートリーが入っていた。

コロムビアのEPは、A面、B面に各1曲ずつのオリジナル作品を収録するスタイルで1970年から年に1枚のペースでリリースされた“楽しいバンド・コンサート”シリーズの第3弾(日本コロムビア、EES-473、1972年4月新譜)で、東京シンフォニック・バンドの演奏で以下の2曲が入っていた。(参照:《第93話 “楽しいバンド・コンサート”の復活》

《楽しいバンド・コンサート<3>》
(録音:1971年(昭和46年)12月6日、武蔵野音楽大学ベートーヴェンホール)

序奏とファンタジア Introduction and Fantasia
(Rex Mitchell, 1929~2011)

・サマー・フェスティヴァル Summer Festival
(David Reck, 1935~)

また、秋山紀夫さんの監修で、CBSソニーから「ダイナミック・バンド・コンサート 第1集」(CBSソニー、SOEL 3)、「同第2集」(CBSソニー、SOEL 4)としてリリースされた2枚のアルバムもたいへんな注目を集めた。

「バンドジャーナル」1972年3月号(音楽之友社)の記事“国内レコーディング・ニュース”(22~23頁)によると、当初、同年4月21日に2枚組でリリースされる計画だったようだが、最終的に以下の16曲が新録され、2枚のアルバムがリリースされた。

《ダイナミック・バンド・コンサート 第1集》
(録音:1972年(昭和47年)1月19~20日、世田谷区民会館)

・皇帝への頌歌 Royal Processional
(John J. Morrissey, 1906~1993)

・ベニスの休日 Vennetian Holiday
(Joseph Olivadoti, 1893~1977)

・ヒッコリーの丘 Hickory Hill
(Carl Frangkiser, 1894~1967)

・壮麗な序曲 Pageantry Overture
(John Edmondson, 1933~)

・キムバリー序曲 Kimberly Overture
(Jared Spears, 1936~)

・コンチェルト・グロッソ 二短調 Concerto Grosso
(Antonio Vivaldi, 1678~1741 / arr. John Cacavas, 1930~2014)

・歌劇「良い娘」序曲 The Good Daughter
(Niccolo Piccinni, 1728~1800 / arr. Eric Osterling, 1926~2005)

・狂詩的挿話 Rhapsodic Episode
(Charles Cater, 1926~)

・エルシノア序曲 Elsinore Overture
(Paul W. Whear, 1925~)

《ダイナミック・バンド・コンサート 第2集》
(録音:1972年(昭和47年)2月9~10日、世田谷区民会館)

・ファンファーレ、コラールとフーガ Fanfare, Chorale and Fugue
(Caesar Giovannini, 1925~2017)

・古典序曲  Classic Overture
(Francois-Joseph Gossec 1734~1829 / arr. Richard F. Goldman, 1910~1980)

・ウィーンのソナチナ、アンダンテとアレグロ Viennese Sonatina
(Wolfgang Amadeus Mozart, 1756~1791 / arr. Walter Beeler, 1908~1973)

・べレロフォン序曲 Bellerophon Overture
(Paul W. Whear, 1925~)

・百年祭序曲 Centennial Suite
(John J. Morrissey, 1906~1993)

・聖歌と祭り Chant and Jubilo
(W. Francis McBeth, 1933~2012)

・チェルシー組曲 Chelsea Suite
(Ronald Thielman, 1936~)

演奏は、いずれも、このセッションのために結成されたフィルハーモニア・ウインド・アンサンブルで、その若々しくシャープな演奏を記憶する人も多いだろう。

そして、日本のバンド・レパートリーに確かな変化が現れた。

結果が出たことで、後続盤の企画も進んだ。再びフィルハーモニア・ウインド・アンサンブルを起用したCBSソニーは、1973年(昭和48年)1月24~25日、世田谷区民会館において、東京アンサンブル・アカデミーを起用したコロムビアは、同2月15日、武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールでそれぞれ同様のセッションを行ない、いずれも4月にリリース。CBSソニーからは、その後、1972年、1973年の録音からコンピレーションされたカセット「吹奏楽オリジナル名曲集」(CBSソニー、SKEC-1)もリリースされた。

そして、演奏者は違えど、これらは、すべて汐澤安彦指揮!

正しく第一任者。“ドライビングフォース”と呼ぶにふさわしい活躍だ!!

2012年(平成24年)3月1日(木)~2日(金)、和光市民文化センター サンアゼリア大ホールで汐澤さんが名誉指揮者をつとめる東京吹奏楽団の録音セッション(CD:ブレーン、OSBR-28040)が行なわれた。

アルバム・タイトルは、孔子の“故きを温ねて、新しきを知れば、以って師と為るべし”に由来する「温故知新」!

汐澤イズム、ますます意気盛んである!!

▲LP – ダイナミック・バンド・コンサート 第1集(CBSソニー、SOEL 3、1972)

▲SOEL 3 – A面レーベル

▲SOEL 3 – B面レーベル

▲LP – ダイナミック・バンド・コンサート 第2集(CBSソニー、SOEL 4、1972)

▲SOEL 4 – A面レーベル

▲SOEL 4 – B面レーベル

▲カセット – 吹奏楽オリジナル名曲集(CBSソニー、SKEC-1、1973)

▲CD – 温故知新(ブレーン、OSBR-28040、2012)

▲OSBR-28040 – インレーカード

「■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第124話 ウィンド・ミュージックの温故知新」への2件のフィードバック

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください