■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第121話 NHK – 世界の吹奏楽・日本の吹奏楽

▲ビッグ・ホーンズ・ビーが表紙を飾った「バンドピープル」1994年6月号(八重洲出版)

▲三浦 徹氏

▲スタジオワーク中の梶吉洋一郎氏(左)(本人提供)

1994年(平成6年)3月21日(月・祝)、NHKは、午後4時から3時間生放送のFM特別番組「世界の吹奏楽・日本の吹奏楽」をオンエアした。

出演は、筆者のほか、東京佼成ウインドオーケストラのユーフォニアム奏者、三浦 徹さん、米米CLUBのホーン・セクション“ビッグ・ホーンズ・ビー”のサックス奏者、オリタ・ノボッタさんという、なんとも不思議な顔合わせ!

何しろ、共通項は吹奏楽だけ、というこの3人!!

キャラクターがまったく違う3人のフリートークが“あらぬ方向“へと暴走しないように仕切る役割は、アナウンサーの坪郷佳英子さんが担った!

本当にご苦労様!!

番組を立ち上げたのは、前年、東京からNHK名古屋放送局(CK)に移動してきたプロデューサーの梶吉洋一郎さん。

梶吉さんとは、1988年(昭和63年)の“ロイヤル・エア・フォース・セントラル・バンド JAPAN TOUR 1988”で知り合って以来のお付き合いだ。(《参照:第10話“ドラゴン”がやってくる!》

プライベートで喋ると、かなり“べらんめえ調”が入る彼とは、不思議と馬が合い、ここまで彼が立ち上げた2本のFM特番で関わってきた。

・生放送!ブラスFMオール・リクエスト
【放送】1992年(平成4年)8月16日(日)午後3時から(3時間30分)
【出演】樋口幸弘、MALTA、坪郷佳英子
《参照:第58話 NHK – 生放送!ブラスFMオール・リクエスト》

・二大ウィンドオーケストラの競演
【放送】1993年(平成5年)3月20日(土)午前9時から(2時間50分)
【出演】樋口幸弘、坪郷佳英子
参照:第102話 NHK – 二大ウィンドオーケストラの競演》

これら2本は、秋山紀夫さんの名調子で人気があったFMの吹奏楽番組「ブラスのひびき」が突然終了。以来、当時のNHK会長の強い方針もあって、NHKの音楽番組ではほとんど放送されなくなった“吹奏楽”を扱う定時番組の復活を掲げた梶吉さんの大きなアドバルーンだった!

番組終了後のリスナーからの反響も大きかったが、残念ながら、定時番組の復活はすぐに実現しなかった。

NHKならではの特殊な風土がそうさせたのだろう。

そんな空気の中、NHK名古屋放送局のR-3スタジオからの同局初のFM全国ナマ放送として企画された「世界の吹奏楽・日本の吹奏楽」の準備のため、梶吉さんから与えられた命題は“吹奏楽による世界一周”!!

彼にとっては、3本目の吹奏楽特番だった!

最初、電話でこのテーマを打診されたとき、直感的に“おもしろい!”と感じた。

だが同時に“一体どっち周りにするんだ?”とも。

直ちに確認を求めると、さすがの彼もその時点ではまだ煮詰めていなかったようで、『西回りと東回りでは、まったく違う番組構成になるよ。』と言いながら、それぞれラフなアイデア、考え方を説明する。

吹奏楽の編成やサウンド、在り方、好まれるレパートリーが、国によってまったく違うからだ。わかりやすく言うと、吹奏楽の国際標準編成など、地球上に存在しないということを念頭に置いた上で番組構成を議論すること。それが重要だった。

また、単に吹奏楽が演奏する世界各国の音楽を並べても意味がない。演奏者も、お国柄が発揮されているものを選ぶことが必要条件になると思えた。

議論に議論を重ねた結果、こんどの番組では“西回りルート”を採ることになり、日本を飛び立って、まずロシアに到着。その後、チェコ→オーストリア→イタリア→スイス→ドイツ→オランダ→ベルギー→フランス→イギリス→アメリカをへて、日本に帰国するという構成をとることにした。

演奏者には、ロシア国立吹奏楽団、ローマ・カラビニエリ吹奏楽団、トルン聖ミカエル吹奏楽団(オランダ)、ベルギー・ギィデ交響吹奏楽団、パリ警視庁吹奏楽団、アイリッシュ・ガーズ・バンド(英)ブラック・ダイク・ミルズ・バンド(英)、イリノイ大学シンフォニック・バンド(米)、イーストマン・ウィンド・アンサンブル(米)、大阪市音楽団など、吹奏楽のビッグネームをラインナップ!!

ルートの途中、スイスでは、東京佼成ウインドオーケストラの協力を得て、前年の1993年(平成5年)秋に同オケが行なったスイス演奏旅行から、9月5日(日)のベルン、9月6日(月)のバーゼルでのコンサート・ライヴを盛り込むことにした。

日本初公開の音源である。

ただ、放送がある祝日の午後は、吹奏楽ファンだけでなく、多くのクラシック音楽ファンもくつろいで番組を愉しんでいる時間帯だ。なので、レパートリーの選択は、けっして吹奏楽ファンだけの独りよがりにならないように心がけた。

偶然番組を聴いたクラシック・ファンにも、“ひょっとして、吹奏楽も面白いかも知れない”と感じて欲しかったからである。

仮に筆者の色が入ったとすると、ニコライ・ミャスコフスキーの『交響曲第19番』、アルフレッド・リードの『交響曲第3番』や『第4番』、H・オーエン・リードのメキシコ民謡による交響曲『メキシコの祭り』という、ウィンドオーケストラのために書かれたオリジナル・シンフォニーのエッセンスや、フローラン・シュミットの『ディオニソスの祭り』、フィリップ・スパークの『セレブレーション』と『コンチェルト・グロッソ』、大栗 裕の『大阪俗謡による幻想曲』を番組の流れの中で、さりげなく盛り込むことができたことかも知れない。

選曲のために事前に聴いた曲は、300曲以上。このとき役に立ったのが、少ないながら我が家に7000枚ほどある海外盤の吹奏楽LPだった。

そして、ズシリと手に響くレコードをぶら下げ、近鉄特急で名古屋入りしたのは、放送前日の3月20日。その日は、スタジオで使用音源を再生しながら、進行順に2本のDATテープにまとめる作業を行なった。生放送だけに、レコードの掛け間違いなどの偶発事故を防ぐための事前作業だ。

スタジオには、NHK卒業(退職)後の身ながら、友軍として駆けつけて下さったベテラン・ディレクター、星 章夫さんの顔もあった。星さんとは、1988年(昭和63年)4月17日(日)、東京・杉並区の普門館でスパークの『ドラゴンの年』ウインドオーケストラ版の日本初演が行なわれたロイヤル・エア・フォース・セントラル・バンドのコンサートの収録以来のおつき合いだ。

レコードを聴きながら、みんな口々に『これ、いいねぇ!』などと感想を述べ合う。

こうして準備は万端!!

3月21日の放送は、定刻どおりにスタートした!

オンエア直後からリスナーの反応も良く、「プロコフィエフがこんないいマーチを書いてたなんて、初めて知りました。」とか「イタリアの演奏は信じられないほどすばらしい!」といった感じで、主にクラシック・ファンからと思われるFAXがスタジオにつぎつぎと入る。坪郷さんがそれをピックアップして読み上げていく。

また、途中、ピアノを前にした三浦さんがユーフォニアムのマウスピースを手にバズィングを披露したり、ラジオ慣れしているオリタさんの軽妙な掛け合いトークもあり、3時間はアッという間に経過!

梶吉さんが“吹奏楽への夢”を託して選んだエンドテーマ『星に願いを』(演奏:ジャパン・スーパー・バンド)が流れる中、番組はハッピー・エンド!!

スタジオ内に笑顔が集まり、大きな拍手がこだました!!

▲NHK-FM 「世界の吹奏楽・日本の吹奏楽」構成表

▲梶吉洋一郎氏(左)と(2018年11月2日、東小金井)

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