【コラム】富樫鉄火のグル新 第281回 小説の中の「無観客」歌舞伎

前回、国立劇場における歌舞伎公演の、無観客映像について述べた。
 実は「無観客の歌舞伎」を題材にしたユニークな短編ミステリ小説があるので、ご紹介しよう。
 戸板康二による、『尊像紛失事件』である。

 戸板康二(1915~93)は、歌舞伎評論家にして随筆家。「ちょっといい話」シリーズなどは、かつてエッセイのお手本のように読まれたものである。
 その戸板が、江戸川乱歩の薦めで書き出し、本業顔負けのワザを見せたのが、老優探偵・中村雅楽シリーズである。1970~80年代にかけて、十七世中村勘三郎主演でTVドラマ化されたので、それでご記憶のご年輩の方も多いだろう(江川刑事=山城新伍、竹野記者=近藤正臣)。

 高松屋こと中村雅楽は77歳の大ベテラン歌舞伎俳優。リュウマチで身体が少々不自由なので、いまでは時折、老け脇役で出る程度だが、むかしの芝居の型をよく知っているため、若手役者たちからも慕われ、大切にされている。
 だが、この雅楽には、もっとすごい才能があった。

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