■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第112話 チェザリーニ:交響曲第2番「江戸の情景」の初放送

▲フランコ・チェザリーニ(撮影:Daniel Vass)]

『ディアー・ユキヒロ、

今夜、中央ヨーロッパ時間(Central European Time)の20時30分、ラジオ・スヴィッツェラ・イタリアーナ・RSI・ネットワーク2(Radio Svizzera Italiana RSI Rete2)で、この前の日曜に行なった我々のコンサートの放送がある。おそらく、そちらでも聴くことができるだろう。それは、私のセカンド・シンフォニーの初演コンサートの放送だ。

貴方が最高のホリデーをもたれますように。メリー・クリスマス&ハッピー・ニューイヤー!』

2018年(平成30年)12月18日(火)、スイスの作曲家フランコ・チェザリーニ(Franco Cesarini)が、12月9日(日)、スイス・ルガーノ市のパラッゾ・デイ・コングレッシ・ルガーノ(Palazzo dei Congressi Lugano)で開かれた自身指揮の年末恒例のガラ・コンサートが、スイス公共放送のネットワークを通じて放送されることを知らせてきたときのメールだ。(参照:《第82話 チェザリーニ:交響曲第2番「江戸の情景」の誕生》)

演奏者は、シヴィカ・フィラルモニカ・ディ・ルガーノ(Civica Filarmonica di Lugano)。1988年以降、フランコが音楽監督、指揮者をつとめ、スイス最高峰のウィンドオーケストラに列せられる。ルガーノ音楽院で専門教育を受けたプレイヤーを中心に構成されるスイスのチャンピオン・バンドだ。

スイス公共放送がコンサートを放送するくらいだから、その実力のほどは推して知るべし。ひじょうに活動的なウィンドオーケストラで、音楽監督就任以来、フランコは、すでに数百回を超えるコンサートを指揮している。

残念ながら、日本で吹奏楽を愉しんでいる人々にはあまり知られていないが、フランコは著名なフルート奏者ペーター=ルーカス・グラーフ(Peter-Lukas Graf)の高弟で、スイスのソロ・コンテストで第1位に輝いたフルート奏者でもある。グラーフのために『フルート協奏曲』も書いており、たびたび師弟デュエットを行なうほどの実力者だ。作曲家の他に、室内楽フルート奏者、指揮者としての顔をもっている。

また、ラジオ・スヴィッツェラ・イタリアーナ・RSIは、スイスのイタリア語圏向けの公共放送だ。

試しにメールに書かれてあるURLにアクセスすると、PCからいきなり流暢なイタリア語が聞こえてきた。どうやら、クラシックなどの音楽専門チャンネルらしく、FMと同時放送のようだった。

大阪からアクセス可能なことを確認後、すぐフランコに返信した。

『ディアー・フランコ、

連絡ありがとう。ラジオ番組はとても興味深い。だが、ひとつだけ問題がある。時差だ。中央ヨーロッパ時間で12月18日の20時30分といえば、日本時間では翌12月19日の早朝4時30分だ。もちろん、懸命に起きようと努めるが、目覚ましがうまく機能してくれるかどうか分からない。結果については、必ず報せる…。

ともかく、とてもエキサイティングなニュースをありがとう!

メリー・クリスマス&ハッピー・ニューイヤー!』

さて、どうしよう。もう夜の11時(日本時間)近い。さすがに、少々睡魔が….。

シヴィカ・フィラルモニカ・ディ・ルガーノのライヴは、聴き逃せないし…。

“寝るべきか”、“起き続けるべきか”の選択で悩んだ挙句、出した結論は、夜食と睡魔撲滅用ドリンクを買ってきて、今から放送を聴き始めるというもの。

(不健康の極みだが、我ながらこれは名案だ!!)

それでも睡魔は繰り返し押し寄せ、それと闘いながら放送を聴いていると、それは室内楽やオーケストラの演奏と演奏者への生インタビューで構成されるラジオ局のようだ。ときどきジングルを挿みながら番組は進行していく。音楽用語を除いて、コメンテーターのイタリア語はさっぱり理解できないが、CDではなく、ナマ収録された音楽素材中心の番組構成はとても新鮮だ。

しかし、さすがはイタリア系!!

予告された時刻になっても、フランコの番組は一向に始まらない。

ここまで必死に起きてきたのに、なにか設定を間違えたのか。ひとり焦るが、どうしようもない。そして、PCの画面に示されている定刻を10分くらい過ぎた頃、ジングルに続いて、コメンテーターがついにフランコの名前を口にした。

(ついに始まったか!)

余談ながら、かなり前、大阪市音楽団(民営化後、Osaka Shion Wind Orchestra)の団長だった木村吉宏さんから、ローマである演奏会に行ったとき、告知されている開演時間の前に行ったら、誰も居らず、定刻になった頃に奏者がゾロゾロと集まりだした、と面白おかしく聞かされたことあった。冗談だろうと思っていたが、ラテン系の国々ではよく似た話をよく聞く。隣国スイスでも、イタリア文化圏は同じなのかも知れない!

時間の概念が違うのだ。

番組は、ここからコメンテーターとフランコの2人の会話が始まった。だが、すべてがイタリア語なので、何を言っているのか、さっぱり分からない。ただ、会話の中に混じる音楽用語や人物の固有名詞などから、フランコは、これから放送される曲についてコメンテーターの質問に答えているのは確かだった。

放送は、コンサートとは違い、つぎの曲順で行なわれた。

・イクエストリアン・シンフォニエッタ(Equestrian Symphonietta)(作品52)

・交響曲第2番『江戸の情景』(Sinfonia N.2“VEDUTE DI EDO”)(作品54)

・カリビアン・シンフォニエッタ(Caribbean Symphonietta)(作品51)

(欧題は、イタリア語表記)

世界的成功を収めた交響曲第1番『アークエンジェルズ(The Archangels)』(作品50)後に完成させた2曲のシンフォニエッタと2作目の交響曲だけの重量感のあるプログラムだった。

80名近い人数のシヴィカ・フィラルモニカ・ディ・ルガーノの安定感のあるゴージャスなサウンドにも圧倒される。そして、フランコに対するリスペクトからだろう。ひじょうにモチベーションが高い。

世界初演となった『江戸の情景』における集中力は、とくにすばらしかった。

そして、割れんばかりの圧倒的な拍手が聞こえてくる!!

初演は大成功だった!

実際にナマのライヴを聴いた出版社ハル・レナード・ヨーロッパの音楽出版部門の責任者ベン・ハームホウトス(Ben Haemhouts)が、『それはもう、ファンタスティックだった!』と演奏会直後に短文メールしてきた気持ちもよくわかる。

また、放送でフランコの話す流暢なイタリア語を聞いていて、来日中も、不慣れな英語ではなく、本当はイタリア語で自由に話したかったんだろうなと感じた。

そう言えば、フランコは翻訳では何度もひどい目にあったことがあると話していた。ある国に招かれたときなどは、事前に渡したプロフィールで“フルート奏者”と書いてあったはずなのに、なんと“バグパイプ奏者”と訳されていたのだそうだ。

(あ~ぁ、お気の毒に!)

番組は、3曲の後、初めて聴くマーチがアンコールとして流れたが、その時点で時計を確認すると、まだ告知された番組枠がかなり残っていた。どうするんだろう、と思っていたら、ボーナスとして、なんとフランコのフルート独奏で、クリスマス・キャロルを2曲、ピアノ伴奏で聴かせてくれた。

いかにもヨーロッパらしいクリスマス!

とても美しいエンディングだった。

▲フルート三重奏(Flute Trio Op.24)

▲フルート四重奏曲第1番(1st Flute Quartet Op.26)(zimmermann)

▲フルート四重奏曲第2番(2nd Flute Quartet Op.30)(Vigormusic)

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