■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第108話 ヴァンデルロースト「オスティナーティ」世界初演

▲チラシ – タッド・ウインドシンフォニー第19回定期演奏会(2012年6月8日、大田区民ホール アプリコ)

▲オスティナーティを聴く(同、撮影:関戸基敬)

▲トロンボーン吹き仲間(同、撮影:関戸基敬)

▲ゲネプロ風景(同、撮影:関戸基敬)

『おはようございます。今日は、皆さんにご紹介したい人物がいます。古い友人で、ベルギーから飛んで来てくれましたベン・ハームホウトス(Ben Haemhouts)さんです。』

2012年(平成24年)6月8日(金)の午後、「タッド・ウインドシンフォニー第19回定期演奏会」のゲネプロが、これからまさに行なわれようとしていた東京・大田区民ホール「アプリコ」のステージで、客席に座っているベンを手招きで呼び寄せ、ステージ上の面々に紹介しようとする際、筆者が話した言葉だ。

つづけて、呼ばれたベンがステージまで歩いてくる間、『彼は、ドイツのバンベルク交響楽団(Bamberger Symphoniker Bayerische Staatsphilharmonie)の首席トロンボーン奏者をつとめ、オランダのデハスケ(de haske)という音楽出版社の音楽出版部門の責任者をつとめています。今日は、彼の出版社からこの秋にも出版が予定されているヤン・ヴァンデルロースト(Jan Van der Roost)の『オスティナーティ(Ostinati)』のパブリックな世界初演が行なわれますが、彼からも“ぜひともリハーサルを聴かせて欲しい”とリクエストがありましたので、この場にお招きしました。』と補足する。

『オスティナーティ』の楽譜は、この日の世界初演に向け、出版社からタッド・ウインドシンフォニーに贈られたものだった。

ステージに上がったベンは、『今日は、ヤンからさんざん聞かされているタッド・ウインドシンフォニーの演奏を聴かせていただけるのを愉しみにしてきました。』と簡単な挨拶をし、プレイヤーから大きな拍手を浴びる!!

一方、作曲者のヤンは、後でお話しするように、訳あってこの日は欠席。しかし、ヤンは、この2年前の2010年6月18日(金)、同じアプリコで行なわれたタッドの“第17回定期”で、『いにしえの時から(From Ancient Times)』という超話題作のウィンドオーケストラ版のパブリックな世界初演があった際、それを聴くために来日している。

それがこの日の『オスティナーティ』につながった。

『オスティナーティ』は、『いにしえの時から』の後に書かれた作品で、もともとは、洗足学園音楽大学ファンファーレオルケストの委嘱で書かれた“ファンファーレ・オルケスト編成”の作品だった。初演は、2011年6月11日(土)、同学前田ホールで作曲者の指揮で行なわれ、同年秋、ベルギーのフォンドス・カレル・ヴェルブルッヘン作曲賞を受賞している。

音楽用語の“オスティナート(執拗もしくは頑固な反復)”からイマジネーションを膨らませ、連続して演奏される3つの楽章で構成される演奏時間18分超の作品だ。

古典の書法をリスペクトする、いかにもヤンらしい格調高い音楽だ。

そのオーケストレーションを一からやり直して、新たなウィンドオーケストラ版を作るという仕事は、実はタッドの『いにしえの時から』をナマで聴いたときの強烈な音楽的衝動と感激が作曲者をしてそうさせたものだった。

筆者は、2011年夏前、突然そのアイデアを聞かされたときのことを、今も鮮明に覚えている。

『ユキヒロ。もし、“オスティナーティ”を作り直してウィンドオーケストラ版を作るとするなら、タッド・ウインドシンフォニーは、果たして演奏してくれるだろうか?』

“えっ!?そら、またきたぞ!!”

と思いながらも、すぐ米ネヴァダ州ラスベガス在住の音楽監督の鈴木孝佳(タッド鈴木)さんに詳細を伝えると、鈴木さんから、『ヤンの曲なら、いつでもウェルカムです。スコアが上がったらぜひ見せてください。』と打ち返しがあった。

作曲者の熱烈アプローチによる『オスティナーティ』ウィンドオーケストラ版世界初演プロジェクトは、こうしてスタートした!!

それからほぼ1年が過ぎた2012年6月、ヤンは、洗足学園音楽大学ファンファーレオルケストのレコーディングのために来日していた。

このとき、彼の本心は、洗足のスケジュールの合間をぬって、タッドの世界初演も合わせて聴きたかったのだが、たまたまタッドのコンサートと洗足のレコーディングのリハーサルの時間帯が見事に重なっていたため、残念ながら断念!

しかし、ベンがアプリコを訪れた前日の6月7日、ヤンは、千葉県松戸市の“森のホール21リハーサル室1”で行なわれていたタッドのリハーサルを訪れ、『いにしえの時から』に続いて『オスティナーティ』も世界初演として取り上げてもらえることに対する礼と作品への想いを演奏家に伝えている。こういうところ、本当に義理堅い男だ。

そして、結局このときは『アプリコと洗足は、すぐ近くなのに…。』と涙したが、後日、タッドのライヴをCD-Rにして届けたところ、一気にテンションが上がって狂喜乱舞!!

『なんとすばらしいパフォーマンスなんだろうか!演奏者のクオリティに加え、音楽のアプローチと解釈が実にすばらしく、私はひじょうに満足しています。今後、これを上回る演奏がもう聴けないんじゃないかと心配になるほど感動的なライヴです!』という感想を寄せてきた。

そして、翌2013年5月、その演奏は「タッド・ウィンド・コンサートVol.19 ヤン・ヴァンデルロースト:オスティナーティ」(Windstream、WST-25025)としてCD化できた。

ほとんど報道されないので日本ではあまり知られていないが、鈴木さんの世界的な人脈も手伝い、タッド・ウインドシンフォニーのコンサートやリハーサルには、このように国内外の作曲家や演奏家がちょくちょく顔を出す。

なので、ゲネプロ前のベンの登場は、ステージ上の演奏家たちにとっては“いつもの”ことであり、事前にきちんと引き合わせをした鈴木さん以外には、“また誰か外国の出版社から人が来てるな”ぐらいに捉えられている様子だった。

しかし、ゲネが進む内、ベンの“正体”に気づいてしまった人がいた。

震源地は、どうやらトロンボーン周辺だった。

休憩時、ホルンの下田太郎さんから、『トロンボーンの桒田 晃さんが“どうして彼がここにいるんだ!”と言われてますが….』と一報が入り、事情が判明。

そう、ベンは、国内外で多くのトロンボーン奏者に親しまれ、桒田さん自身も演奏したことがあるベルト・アッぺルモント(Bert Appermont)のトロンボーン協奏曲『カラーズ(Colors)』の委嘱者であり、世界初演のときの独奏者、そして初のCD録音を行なったトロンボーン奏者だった!!

彼がソロをとり、世界的成功を収めたCD「カラーズ(Colors)」(蘭World Wind Music、WWM500.054、1999年)を聴いた人も多くいるだろう。

タッド指揮者の鈴木さんも、日本フィルハーモニーや東京佼成、アンサンブル・アカデミーなどで活動された、元はと言えばオーケストラ・トロンボーン奏者!

トロンボーン吹き同士の不思議な波長とでも言えばいいのだろうか。鈴木さんとベンは、いろんな話で盛り上がり、すっかり意気投合した様子だった。

その日の演奏会の打ち上げで、最終的に“第三次会”まで残ったのは、指揮の鈴木さん、トロンボーンの桒田さん、そして筆者の3人。

そこでの桒田さんの思いがけない一言も忘れられない。

『次のタッド、彼(ベン)を呼びましょうよ。』

残念ながら、これは、まだ実現できていない!

▲プログラム – タッド・ウインドシンフォニー第19回定期演奏会(2012年6月8日、大田区民ホール アプリコ)

▲同、演奏曲目


▲タッド・ウインドシンフォニー第19回定期演奏会から(同、撮影:関戸基敬)

▲タッド・ウインドシンフォニー第19回定期演奏会から(同、撮影:関戸基敬)

▲CD – タッド・ウィンド・コンサートVol.19 ヤン・ヴァンデルロースト:オスティナーティ」(Windstream、WST-25025、2013年)

▲CD – Colors(蘭World Wind Music、 WWM500.054、1999年)

▲同、インレーカード

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