【コラム】富樫鉄火のグル新 第257回 ラヴェルと日本

 「作曲家◎人と作品シリーズ」(音楽之友社)に、待望の『ラヴェル』が加わった。著者は、フランス近代音楽史の研究家で、愛知県立芸術大学教授の井上さつき。シリーズのほかの本同様、「評」伝色を極力排し、事実と資料の積み重ねだけで、あまりに特異なラヴェルの人生を浮き彫りにした、みごとな伝記である(巻末の作品リストや年譜も微に入り細に入る)。

 邦訳のラヴェル伝といえば、少なくとも近年では、『ラヴェル 生涯と作品』 (ロジャー・ニコルス、渋谷和邦訳/泰流社、1996年刊)や、同名の『ラヴェル 生涯と作品』(アービー・オレンシュタイン、井上さつき訳/音楽之友社、2006年刊)などがあり、特に後者は決定版の貫禄十分だった。
 そのほか、ジャン・エシュノーズ『ラヴェル』(関口涼子訳、みすず書房、2007年刊)などもあり、わたしは大好きなのだが、これは、ラヴェル最後の十年をたどる「小説」である。

 その後、(本書あとがきによれば)上記前者のロジャー・ニコルスによる新版や、後者オレンシュタインがまとめた書簡集などが出たそうで、本書は、それらの最新情報をも取り込んだ内容となっている。そのため、ラヴェル自身が、自作や、かかわりのある人間について、どのような思いを抱いていたかが生き生きと伝わってくる。

 だが本書で、わたしが面白く読んだのは、「日本」とのかかわりである。

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