■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第101話 グレナディア・ガーズがやってきた

▲チラシ – 英国近衛軍楽隊コンサート(2019年10月9日、阪急うめだホール、大阪)

▲ チラシ – 裏

▲プログラム表紙 – The Band of Grenadier Guards Japan Tour 2019

▲同、演奏曲目

『えーッ??“グレナディア”、来るんですか??全然知りませんでした!』

2019年(令和元年)10月3日(木)、全日本学生吹奏楽連盟理事長、溝邊典紀さんに、大阪・梅田の阪急うめだホール(阪急百貨店9階)で10月9日に開かれるイギリスのグレナディア・ガーズ・バンド(The Regimental Band of the Grenadier Guards)のコンサートをどうされるのか、電話でおたずねした時、ものすごい勢いで返ってきた驚きの声だ。

招聘元は、東京のベルカントジャパン。だが、何といっても、コンサートの主催者が、阪急うめだ本店であることが、大阪ネイティブにとっては、一際目を引く大事件として映る。チラシにも、高級感のある“Hankyu”のロゴが光っている!

グレナディア・ガーズ・バンドの創立は、1685年。「グレナディア・ガーズ」「コールドストリーム・ガーズ」「スコッツ・ガーズ」「ウェルシュ・ガーズ」「アイリッシュ・ガーズ」と、現在5隊ある“近衛歩兵連隊”の名を冠した5つのバンドの1つとして、バッキンガム宮殿やウィンザー城の衛兵交代など、王室関連の演奏を他のガーズ・バンドとともに担う。また、ミリタリー・バンドとして、イギリスで最も長い歴史を誇っている。(参照:《第13話 英国女王陛下の音楽大使》)

当然、レコードや放送でも大活躍。《第92話 かくて歴史は書き換わる!》でお話した、グスターヴ・ホルスト(Gustav Holst)の『組曲第1番(First Suite in E flat for Military Band, Op.28 No.1)』を、世界でいち早く1920年代の前半、英Columbiaにジョージ・ミラー(Lt.-Col. George Miller、在任:1921~1942)の指揮で全曲録音したバンドだ。

エリザベス女王の戴冠式が行なわれた1953年の奉祝記念盤「Marches of the British Fighting Forces」(英Decca、LK 4058、モノラル)以降は、老舗メジャー・レーベル、英Decca専属のドル箱アーティストとして活躍。フレデリック・J・ハリス(Lt.-Col. Frederick J. Harris、在任:1942~1960)、ロドニー・B・バシュフォード(Lt.-Col. Rodney B. Bashford、在任:1960~1970)、ピーター・W・パークス(Major Peter W. Parkes、在任:1970~1976)の3代の音楽監督の指揮で録音されたレコードは、日本でもDeccaと契約関係にあったキング(Londonレーベル)やユニバーサル(同)からレコードやCDとしてリリースされたから、国内にも相当数のファンをもつ。

また、1990年(平成2年)、大阪・鶴見緑地で開催された「国際花と緑の博覧会 EXPO’90」(期間:4月1日~9月30日)でも、9月25日(火)の“英国ナショナルデー”のために、演奏旅行中のタイから、バンドのほぼ半数を分派して初来日。ナショナルデーのセレモニーや当時このバンドが売り物にしていた“18世紀バンド”(18世紀当時のユニフォームと曲目で人気を博した)の演奏で会場を大いに沸かせた。

グレナディア・ガーズの“日本ツアー2019”の主なスケジュールは、つぎのように組まれた。

・10/9(水)阪急うめだホール(大阪)

・10/10(木) 金沢歌劇座(石川)

・10/12(土) 武蔵野市民文化会館(東京)
(※台風19号のため、公演中止)

・10/13(日) 北上市文化交流センターさくらホール(岩手)

・10/14(月・祝) 神奈川県立音楽堂

・10/15(火) 昭和女子大学人見記念講堂(非公開)(東京)

・10/17(木) 英国大使館(非公開)(東京)

・10/19(土) 皇居前広場(奉祝パレード)(東京)

上記以外にも、公演地によっては、パレードも組まれていたが、それはともかく、2019年のツアーは大阪が起点であり、これはなかなかない千載一遇のチャンスだと思えた。なぜなら、ガーズのコンサートでは、聴衆の反応や地元のニーズを見極めながら、演目が変更されることが多いからだ。しかしながら、初日だけは用意したプロどおりに演奏されるはずで、それを聴けば、このバンドがこのツアーにどれだけの準備をしてきたかがよくわかる。また、密かな愉しみである即販グッズもひととおり全部が並ぶ!

(今回も、グレナディア・ガーズの連隊バッジが刺繍されているポロシャツやガーズ・ネクタイ、装身具、各種ステッカー、絵葉書、書籍、CDなど、盛りだくさん。片っ端から買えば、間違いなく破産の憂き目をみるほどだった!)

そこで、海外バンドのコンサートをご一緒する機会が多い溝邊さんに電話を入れたわけだが、当日は、たいへん珍しい午前11時の開演だったため、あいにく氏は同じ時間帯に先約があり、コンサートにはひとりで出向くことになった。

それにしても、事情通の溝邊さんが地元で開かれるこのコンサートのことをまったくご存知なかったのは、たいへんなレアケースだ!!恐らくは広報不足だろうが、電話では『なんで(なぜ)、そんな時間に…。』とたいへん残念がられていた。

ホールに入り、早速ツアー・プログラム(500円なり!)を購入し、中を開くと、プログラムには、ヤン・ヴァンデルローストの『横浜音祭りファンファーレ』や広瀬勇人の『キャプテン・マルコ』、今井光也の『オリンピック東京大会ファンファーレ』、古関裕而の『オリンピック・マーチ』など、日本を意識した曲名が並ぶ。同行するスコッツ・ガーズとグルカのバグパイプ鼓隊のメンバーを交えた『アメージング・グレース』や『ハイランド・カテドラル』、クィーンのヒット曲『ボヘミアン・ラプソディー』やミュージカル『キャッツ』から“メモリー”、エルガーの行進曲『威風堂々』第1番など、イギリスを感じさせる曲も多い。

日英交歓と誰でも愉しめるエンターテイメント性をミックスさせたプログラムだ!

実際、平日の午前スタートのこのコンサートの聴衆の大半は、百貨店に買い物ついでに誘い合わせて来られたようなご婦人衆が多かったから、肩肘張らずに愉しめるこのプログラムは、この日の聴衆にはぴったりマッチしていたようだ。

やがてステージの明かりが上がり、メンバーが入ってきた。そのとき、あることに気がついた。おなじみの赤いユニフォームの腕に伍長や軍曹の階級章をつけたプレイヤーがかなり多いのだ。ラフに数えても、全体の3/4以上がそのようだった。これはかなり期待できるゾ!

ほとんどベテラン奏者で構成されるバンドであることを示していたからだ。

プログラムが始まると、筆者の予想は的中。この日のホールがそんなに大きな空間をもたないのにもかかわらず、バンドの音が混じりあって美しくソフトに響く。個々のスキルも高い。指揮者は2人制だったが、音楽監督のマイクル・スミス(Major Michael Smith)が指揮をとった『キャプテン・マルコ』がとくに絶品だった!

その一方、公演チラシのオモテ・ウラの両面に、グレナディア・ガーズではない別のバンド(グレナディアとは“永遠のライバル関係”にあるコールドストリーム・ガーズ・バンド)のステージ写真が使われていたり、ツアー・プログラムの曲目解説中、古関裕而の『オリンピック・マーチ』の解説文の中身が全篇“リバーダンス”になっていたり、いったい何と表現したらいいのか分からないほど、パワー全快で“つっこみたい”気分になった。まるで拙速の見本のようなもので、本当に、もう少し注意深く作れないものだろうかと願う。

なによりも、グレナディア・ガーズに対する礼を失している!

しかし、しかしである。そんな残念なこともあったが、この日聴いたグレナディア・ガーズのパフォーマンスには、かなりの満腹感を覚えた。

そして、プログラム終了時、司会者から驚くべき案内が告知された。

なんと、この後、百貨店内の同じフロアにある祝祭広場(階段状に石造りの座席が組まれている)で30分プロの演奏(無償)が何度か行なわれるというのだ。しかも、マーチングもあると!

オッと、これは大ニュースだ!溝邊さんに、すぐにでもお知らせせねば!

この予想外の“緊急事態”に、急いで家までとって返し、奈良の溝邊さんに電話を入れて、これからまだ午後5時からと7時からの2回、30分プロがあることを伝える。

すると、ちょうど大阪から帰宅されたばかりだった氏は、『えッ?それは、聴きにいかんと(行かないと)!』と、ふたたび大阪に向かうことを即断された!

ロケーションが近い筆者は、朝のコンサートとは完全に別プロの午後5時と7時の両回(それぞれの曲目も違った)を堪能し、急遽奈良から来られた溝邊さんも、7時からの演奏には間に合った。

この祝祭広場でのパフォーマンスは、ドラム・メイジャーの号令一下、グレナディア・ガーズの制式速歩行進曲『ブリティッシュ・グレナディアーズ(British Grenadiers)』で下手サイドから入場。広場でコンサート隊形にフォーメーションを変え、立奏のままポップな曲を何曲か演奏した後、再びマーチング・フォーメーションに戻って『ブリティッシュ・グレナディアーズ』で下手へと捌けていくというスタイルのパフォーマンス。

おなじみの熊皮(ベアスキン)の帽子を被った姿で入場してくる彼らに向けられるもの凄い数のスマホと万雷の拍手!

みんな笑顔だ!

『ええ音(いい音)してますなー!』

溝邊さんが思わず口にされたこの言葉が、そのすべてを物語っていた!

▲英国ナショナルデーのファンファーレ隊(1990年9月25日、国際花と緑の博覧会、大阪)

▲グレナディア・ガーズ18世紀バンド(同)

▲ファンファーレ隊と18世紀バンドの合同パフォーマンス(同)

▲LP(30センチ) – Marches of the British Fighting Forces(英Decca、LK 4058、モノラル、1953年)

▲LK 4058 – A面レーベル

▲LK 4058 – B面レーベル

▲LP(25センチ) – Finlandia – Overtura di Ballo(英Decca、LW 5117、モノラル、1954年)

▲LW 5117 – A面レーベル

▲LW 5117 – B面レーベル

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