2013年、渋谷イメージ・フォーラムでの「ポーランド映画祭」で『イーダ』(パヴェウ・パヴリコフスキ監督、2013年)を観た。あまりに素晴らしかったので、映画祭中、2回観た。翌2014年に日本で一般公開され、また2回観た。2015年には米アカデミー賞で最優秀外国語映画賞を受賞した。
これはポーランドの戦後史というか精神史のようなものを、ひとりの少女(見習い修道女)を軸に描く映画なのだが、その素材のひとつに、ジャズが使われていた。戦後、ソ連の支配下にあったポーランドでは、ジャズは禁止されていた。そんな“敵性音楽”に出会うことで少女におきる変化を、モノクロの静謐な映像で美しく描いていた。
ラストで、バッハの《われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ》BWV 639(ピアノ版。たぶんブゾーニ編曲)が流れるのも見事な音楽演出だった。これほどバッハが効果的に流れる映画は、『木靴の樹』(エルマンノ・オルミ監督、1978年)以来ではないかと思われた。
この監督の新作『COLD WAR あの歌、2つの心』が公開されている。再びポーランド戦後史が題材なのだが、『イーダ』以上に、音楽要素が強くなっており、事実上の“音楽映画”となっていた。