【コラム】富樫鉄火のグル新 237回 よみがえるサリエリ(下)

(前回よりつづく)
 1979年にロンドンで初演された舞台『アマデウス』に、もっとも早い時期に注目した日本人は、おそらく、文学座のベテラン俳優、江守徹さんだった。
 もともとシェファーが好きだったうえ、クラシック音楽ファンでもあった江守さんは、噂を聞いて、すぐにロンドンから台本を取り寄せ、読んだ。
「あまりの面白さに、一気に読んでしまいました。だいたい、読んで面白い戯曲なんて、あまりないもんですが、これは違いましたね」

 そこで、さっそく文学座での上演を企画する。だが、文学座は劇団組織である。会議にかけなければならない。それには、荒っぽくてもいいから翻訳し、みんなに読んでもらう必要がある。たまたま、大きな舞台が入っていない時期だったので、江守さんは自分で翻訳を開始した(この江守訳は、のちに劇書房から刊行された。上演は別翻訳)。
 だが、その間に、松竹が上演権を獲得してしまう。主演(サリエリ役)は九世松本幸四郎(現・二世松本白鷗 )。そしてなんと、江守さんにモーツァルト役のオファーが来た。
「正直言って悩みました。この作品に惚れ込んだ以上、やはりサリエリ役をやりたいと思っていましたから」
 しかし、考えた末、江守さんはモーツァルトを演じる決意をする。コンスタンツェ役は藤真利子。
 1982年6月、サンシャイン劇場での初演だった。

【この続きを読む】

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください