2月の文楽公演(東京)の第3部で、《阿古屋琴責》の段(壇浦兜軍記)が上演された。
平家の残党・景清の行方を捜索中の畠山重忠は、遊君・阿古屋を逮捕する。彼女は景清の愛人なので、行方を知っているはずだ。だが、いくら取り調べても、知らぬ存ぜぬの一点張り。そこで重忠は奇策を発案する。阿古屋に、三曲(琴、三味線、胡弓)を弾かせるのだ。もし音色に乱れが生じれば、ウソをついている証しになる……まさに劇画のような「奇策」だが、こういうトンデモ設定を平然と入れ込むところが、江戸エンタメの面白さでもある。
今回は、この三曲を、鶴澤寛太郎(1987~)が見事にこなして、人形の阿古屋(桐竹勘十郎)ともども、喝采を受けていた(彼の三曲は、東京ではこれが2回目だと思う)。
幕間にロビーの売店をのぞくと、新刊書籍が山積みになっていた。『うたかた 七代目鶴澤寛治が見た文楽』(中野順哉、関西学院大学出版会)とある。昨年9月に、89歳で逝去した人間国宝、七代目鶴澤寛治(1928~2018)の、聞き書き自伝である。「阿古屋」は、寛治の若いころの得意演目でもあった。