20数年前、オペラCDブック全集の編集に携っていたことがある。付属CDのかなりが、マリア・カラス全盛期のライヴ音源だった。音質は悪かったが、どれも劇的な歌唱で、まさに「うたう大女優」といったイメージだった。
その際、監修者のオペラ研究家・永竹由幸さん(1938~2012)がよく口にしていた話が、忘れられない。
「カラスのライヴ音源や映像は、ほぼ出尽くしてるんだけど、××歌劇場や、△△座あたりには、記録用のテープや映像フィルムが、まだあるはずなんだよね」
永竹さんは、奥様がイタリア人で、ミラノやサルデニア島にも自宅や事務所を持っておられた。
イタリア各地の歌劇場関係者や、カラス全盛期のコンビ、ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(1921~2008)とも親しく、アングラ・レベルまで含めて、かなりの情報を持っていた。それだけに、相応の信憑性を感じさせる話だった。
現在公開中のドキュメント映画『私は、マリア・カラス』は、そんな“永竹情報”を裏打ちする、驚愕の映像集である。