■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第67話 チェザリーニ:交響曲第1番「アークエンジェルズ」日本初演

▲フランコ・チェザリーニ

▲世界初演の告知

▲世界初演会場 アウディトリウム・パラシオ・エウスカルドゥーナ

▲スコア – Symphony No.1 “The Archangels”

スイスの作曲家フランコ・チェザリーニ(Franco Cesarini)が初めて日本の地を踏んだのは、2016年6月7日(火)午前10時15分、成田着のアリタリア航空、AZ 786便でだった。

フランコとは旧知の間柄だが、こちらも、彼を自国へ迎えるのは、これがはじめてだった。

来日目的は、約4ヵ月前に初演されたばかりの彼の最新作、交響曲第1番『アークエンジェルズ』(作品50)(Symphony No.1 “The Archangels”Op.50)の日本初演を行なうことになった鈴木孝佳指揮、タッド・ウインドシンフォニーとのコラボレーションのためだった。

この作品は、作曲者が書いていることを誰にも明かさず、長年温めてきた構想を1つの音楽としてまとめあげたシンフォニーで、4楽章構成、演奏時間およそ31分の作品だ!

フランコによると、特定の演奏団体や個人からの委嘱作品ではなく、構想は、1993年の『ビザンティンのモザイク画』(Mosaici Bizantini)を書き上げた当時からすでにあったものだという。

だが、実際には、着手しては断念、着手しては断念を何度も何度も繰り返し、“今度ダメだったら、シンフォニーの構想自体、永久に廃棄しよう”とさえ思ったこともあったという。

完成直前までこの曲を手掛けていることを誰にも明かさなかったのは、このためだった。

それが、今回は“何かが天から降りてきた”かのごとくスイスイと筆が進んだそうで、作品は2015年秋についに完成!

各楽章には、“ガブリエル”(Gabriel, The Messenger of Light)、“ラファエル”(Raphael, the Guide of Souls)、“ミカエル”(Michael, the Pince of te Heavenly Host)、“ウリエル”(Uriel, the Time Keeper)という聖書に現われる4人の大天使(アークエンジェル)の名前が楽章名としてつけられ、各楽章の音楽を支配するモチーフとして扱われている。

前作にあたる『ビザンティンのモザイク画』同様、曲中、グレゴリオ聖歌のメロディーが使われているのも大きな特徴だ。

世界初演は、2016年2月7日(日)、スペイン北部、バスク州ビルバオのアウディトリウム・パラシオ・エウスカルドゥーナ(Auditorium Palacio Euskalduna)で、作曲者の指揮、バンダ・ムニシパル・デ・ビルバオ(Banda Municipal de Bilbao)の演奏で行なわれた。

これは、ちょうど客演指揮を依頼されていたこのバンドに、完成後フランコの方からもちかけたところ、二つ返事で決まったものだったという。

ビルバオは、積極的なインフラ投資による創造都市プロジェクトで世界的な成功を収めた町で、1997年10月に開館したビルバオ・グッゲンハイム美術館など、新しい町のランドマークになるような建物や構造物がつぎつぎと作られている。

演奏会場となったアウディトリウム・パラシオ・エウスカルドゥーナは、1999年2月に開館した2164席を有する近代的な大ホールで、会場のパイプ・オルガンも効果的に用いられた世界初演は、センセーションな大成功を収めた!

その後、4月28日(木)、イブ・セヘルス指揮、ロワイヤル・デ・ギィデ(ベルギー・ギィデ交響吹奏楽団)によるベルギー初演(ブリュッセル)、5月18日(水)、作曲者指揮、ルガーノ市民フィルハーモニック吹奏楽団によるスイス初演(ルガーノ)、5月21日(土)、同じく作曲者指揮、ルガーノ市民フィルハーモニック吹奏楽団の演奏によるオランダ初演(ユトレヘト)など、ヨーロッパ各国の初演、再演がつぎつぎと企画されたことは、周知のとおりだ。

ハル・レナード・MGB(当時)の音楽部門責任者ベン・ハームホウトス(Ben Haemhouts)から、このシンフォニーについて第一報がもたらされたのは、2015年11月4日のことだった。

それは、タッド・ウインドシンフォニーが、フィリップ・スパーク(Philip Sparke)の交響曲第3番『カラー・シンフォニー』(Symphony No.3 “A Colour Symphony”)の日本初演を、2016年1月23日(日)、東京で行うことを報せたメールへの返信の中でもたらされた。

『ディアー・ユキヒロ、私も大変エキサイティングなニュースがある。フランコ・チェザリーニが初の交響曲をほぼ書き上げているんだ!まだ誰もそれを知らない。彼は、2年間秘密裡にその作品を作曲していた。委嘱ではなく、彼が作曲することを望んだものだ。初演はまだ計画されていない….。』

ほほう、こいつは面白い!で、思い切り“反応”してメールを返す!!

ベンからスコアがメールで送られてきたのは、それから2週間たった11月18日のことだった。

『あなたは、私自身と作曲者を除いて、これを見た最初の人になります。この作品をどう思うか、そして、日本であなたが“何か”をやる可能性が見出せるかどうかを知らせて欲しい…。』

回りくどい言い方だが、文面から、この作品の“日本初演”の芽があるかどうかを知りたいという意図が透けて見える。

そこで、すぐプリントアウトして、第1楽章の最初の頁に目を落とした。

冒頭、ティンパニ・ソロが唸り、すぐ後にほぼすべての楽器が参加し、まるでオルガンのように響くサウンドがくる。

これはいけない。もうこの部分だけで興奮してしまった!!

そして、一とおり目を通した後、ベンに返信した。

『真にグレートな作品であり、とても感動した。本当に! まず最初に、フランコに祝意を伝えてほしい。これは、経験豊かな指揮者にとっては、ドリーミーなシンフォニーになるだろう。ヨーロッパで言うなら、例えば、ハインツ・フリーセンやイヴァン・メイレマンスのような….。』

メールを書くこちらも、かなり前のめりになっていた。

しかし、まだ世界初演前の話だ。この時点では、作曲者が作ったスコアしかなく、パート譜の準備など、ここからかなりの日時を要することは明らかだった。それがある程度まとまらないことには、どんなプランも前には進めない。

その後、確認事項のやりとりが進む内、出版社としてのスケジュールもほぼ固まってきた2016年1月、ベンは、『まだ初演前で、機密事項なんだが、ぜひタッド鈴木(鈴木孝佳さん)にスコアを見てもらって欲しいんだ。OKか!』と言い出した。

ベンは、タッド・ウインドシンフォニーが、ヤン・ヴァンデルロースト(Jan Van der Roost)の『オスティナーティ』(Ostinati)のウィンドオーケストラ版世界初演を行なった2012年6月8日(金)、大田区民ホールアプリコ(東京)でのリハーサルに顔を出し、自分の目と耳で確認したマエストロ鈴木のオリジナル作品へのアプローチとこの楽団のモチベーションの高さに全幅の信頼を置いていた。

元オーケストラのトロンボーン奏者同士というキャリアも、二人がウマが合う要因なのかも知りない。

ベンの意向を受け、早速アメリカの鈴木さんにスコアを送る。

すると、『ざーっとですが、2度見ました。可能ならば是非ともTADで演りたいですね。日本の人達にも好まれるのではないかと思います。優秀なイングリッシュホーン奏者が必要ですが、アレックス・ハヤシ君が来てくれれば問題ないでしょう。』と返答が速攻で返ってきた。(アレックスは、氏の教え子で、お気に入りのイングリッシュホーン奏者だ。)

これをベンに伝えると、“ぜひにも”という返答で、あっという間に日本初演が決定してしまった!

作品に惚れ込んだ鈴木さんが、すでに決まっていた次回定期のメイン・プロを急遽差し替えての決定でもあった。

TADのメンバーには、世界初演から9日後、小石川にある遠州屋の座敷を借りた2月16日のミーティング(と称する事実上の“呑み会”)で発表された。

食い入るようにスコアを覗くプライヤーたちの眼は、もはや臨戦態勢だ!

一方、出版社は、“ずっと行きたいと思っていたけど、まだ日本へは行ったことがない”というフランコのために旅費を用立てるなど、全面サポートの体制をとった。

かくて、2016年6月10日(金)、ティアラこうとう 大ホールでの日本初演は、ヨーロッパから作曲者を客席に招いたTADにとって誇らしくも晴れがましいステージとなった。

コンサートは、楽章間にも咳ばらいがまったくないほど、ステージと客席が一体となったすばらしいライヴとなった。完全なる大成功だ!!

終演後、『今日は、セレブレーションだ!』と言いながら、鈴木さんと祝杯をあげるフランコ!

高揚したそのときの顔が忘れられない。

フランコ・チェザリーニの交響曲第1番『アークエンジェルズ』(作品50)の日本初演!

それは、人と人との結びつきが生み出した一期一会の宴となった!!

▲「タッド・ウインドシンフォニー第23回定期演奏会」チラシ

▲日本初演時の自筆メッセージとサイン

▲鈴木孝佳とチェザリーニ(撮影:鈴木 誠)

 

▲カーテンコール(撮影:鈴木 誠)▲カーテンコール(撮影:鈴木 誠)

▲CD – タッド・ウィンド・コンサート Vol.30 交響曲第1番「アークエンジェルズ」

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