■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第57話 スパーク「セレブレーション」ものがたり

▲CD – セレブレーション!(佼成出版社、KOCD-3571、リリース:1993年6月26日)

▲ディレクター若林駿介とフェネル(1992年11月、川口総合文化センター・リリア、メインホール]

 ▲「セレブレーション」のスコアをカメラに向けてごきげんのフェネルとコンサート・マスター須川展也(同)

▲セッション中のフェネルと東京佼成ウインドオーケストラ(同)

『また、ちょっと相談にのって欲しいことがあるんだけど….。』

東京佼成ウインドオーケストラのマネージャー、古沢彰一さんから、こういって電話が掛かってきたのは、同オケ初のヨーロッパ公演(日程:1989年6月29日~7月23日)から、しばらくたったある日の午後のことだった。

古沢さんの話はいつも面白い。早速、話を伺うと…

『ヨーロッパ公演の流れで、国際文化交流事業として、ヨーロッパの作曲家に作品を委嘱することになってね。すでに2人の作曲家に委嘱したんだけど、予算枠としては少し余裕があって、もう1曲頼めそうなんだ。そこで相談なんだけど、“ぜひ、これは”という作曲家を挙げて欲しいんだ。誰がいいと思う?』

それは、とても興味をそそられる話だった。

そこで、まず、すでに作曲を頼んだという2人の作曲家の名を訊ねる、すると、1人がオランダのユリアーン・アンドリーセン(Jurriaan Andriessen)、もう1人がイギリスのジョーゼフ・ホロヴィッツ(Joseph Horovitz)だと答えが返ってきた。

いずれも、オランダの出版社モレナール(Molenaar)から作品が出版されている作曲家だ。

この当時、デハスケ(de haske)は、創業間もない“超弱小”の出版社。ヤン・モレナール(Jan Molenaar)というパワフルな社長のもと、アメリカのミッドウェスト・クリニックにも進出し、大きなブースを出していたモレナールは、オランダ最有力の音楽出版社だった。

東京佼成ウインドオーケストラのヨーロッパ・ツアーのクライマックスで、そのガラ・コンサート(7月20日、指揮:フレデリック・フェネル)に招かれていたオランダ・ケルクラーデの「世界音楽コンクール1989(Wereld Muziek Concours 1989)」(於:ロダハル)でも、モレナールの存在感や影響力は、絶大だった。

古沢さんの口から出た2人の作曲家も、モレナール氏からの推薦に違いない。両者は、すでに名を成したベテラン作曲家だったからだ。

なので、もう1人の作品委嘱の相手には、まったくカラーの違うフレッシュな顔がいい。

筆者は、迷うことなく、フィリップ・スパーク(Philip Sparke)の名を挙げ、こう続けた。

『古沢さん、今回のロンドンのレコーディングで“ドラゴンの年(The Year of the Dragon)”って曲を録られたでしょう? スパークは、それを書いた新進気鋭の作曲家です。実は、事前に連絡を入れておいたら、彼は、エンジェル・スタジオのセッションに足を運んでくれていたんです。何が言いたいのか、と云うと、彼は、実際のセッションの現場をつぶさに見て、東京佼成ウインドオーケストラの実力もパーソナリティーもよく理解しているんです。今、作品委嘱をするなら、最有力候補じゃないでしょうか。』

電話の向こうの古沢さんも、ロンドンのセッション現場に作曲者がいたという話に少し驚いた様子だったが、『今日は、いい情報を聞かせてもらいました。正式に決まったら、また連絡するんで…。』と、早速、会議に諮ってもらうことになった。

その後、正式に委嘱が決定。『近い内に、東京佼成から連絡があるから…。』とフィリップに伝えると、彼はもう、狂喜乱舞の大興奮!!

その結果、1991年に完成したのが、『セレブレーション(Celebration)』だった。

フィリップは、当時の私信の中で、この作品では、“東京佼成ウインドオーケストラの驚くべき演奏能力”と“人間のスピリット(魂や精神)に於ける楽天主義的な側面”の2つをセレプレート(称賛)していると書いている。

『セレブレーション』は、非常に高度なスキルが求められるだけでなく、推進力と高揚感があり、一瞬たりとも気を緩めることのできないスリリングな作品となった。

東京佼成のスキルと音楽性に信頼をおいた手加減なしの曲なので、当然、グレードは6超え!

初演は、1992年6月11日(木)、島根県松江市のプラバホールで開催された東京佼成ウインドオーケストラの“法燈継承記念特別演奏会”(主催:立正佼成会松江教会)で、クレーグ・キルコッフ(Craig Kirchhoff)の指揮で行われた。

ついで、その翌月の7月9日(木)、鹿児島県文化センターで行われた同じタイトルの演奏会(主催:立正佼成会鹿児島教会)でも、フレデリック・フェネル指揮の再演が行われている。

そして、フェネルは、この曲のスコアに大興奮!

結果、彼は、同年11月4日(水)~5日(木)、埼玉県の川口総合文化センター・リリア、メインホールでセッションが組まれていた佼成出版社の録音にこの曲を即座に組み入れた。

録音レパートリーは、以下のようなものだった。

・セレブレーション
(フィリップ・スパーク)
Celebration(Philip Sparke)

・シンフォニエッタ
(インゴルフ・ダール)
Sinfonietta(Ingolf Dahl)

・「グレの歌」のモティーフによるファンファーレ
(アルノルト・シェーンベルグ)
Fanfare on Motifs of Die Gurrelieder(Arnold Schoenberg)

・シェイカー教徒の旋律による変奏曲 ~「アパラチアの春」より
(アーロン・コープランド)
Variations on a Shaker Melody(Aaron Copland)

・神聖なる行列
(ジョージ・パール)
Solemn Procession(George Perle)

・ハイドンの主題によるファンタジー
(ノーマン・デロ=ジョイオ)
Fantasies on a Theme by Haydn
(Norman Dello Joio)

アルバム・タイトルは、フェネルの歓喜と称賛の気持ちを表すように“!”をつけられ、「セレブレーション!」

フェネル自ら“コンテンポラリー・ミックス”とサブ・タイトルをネーミングをして話題を呼んだCD「ピース オブ マインド」(佼成出版社、KOCD-3569、リリース:1992年3月10日、第53話 フェネル:ピース オブ マインド、参照)につづくシリーズ第2弾だ!

セッション中、フェネルは、こう語ってくれた。

『“委嘱”というのは、どんなものが出来上がってくるか分からないし、お金もかかる。しかし、称賛すべきこんなすばらしい作品が生み出されることもあるんだから、もっとやるべきだと、今みんなに言っているところなんだ!!』

そういうフェネルの眼は、まるで青年のようにキラキラと輝いていた!

このセッションには、いくつか後日談がある。

録音が行われる少し前、フィリップがCD「オリエント急行」(佼成出版社、KOCD-3902、リリース:1992年12月21日、第48話 フィリップ・スパークがやってきた、参照)の録音のために来日し、普門館でセッションを行なったことを後から知らされ、フェネルが珍しく『なぜ、知らせてくれなかったんだ。』と楽団事務所にクレームを入れ、とても残念がったというニア・ミス事件。

セッションにおいて、フェネルは、プレストの部分に1箇所あるリピートをカットしたが、後日、コンサート・マスターの須川展也さんが、海外でフィリップと偶然出会った時、演奏の出来を称賛された後、『なぜ、カットした?』と訊かれたカット詰問事件。

『スパークにおこられちゃいましたよ。』と言われた須川さんの言葉は、今もしっかりと耳に残っている。

まあ、そんなこともあるにはあったが、フィリップ・スパークの『セレブレーション』は、フェネルと東京佼成ウインドオーケストラの“お気に入り”となった。

1993年のスイス公演プロでも取り上げられ、伝統的なプログラムを好むヨーロッパの聴衆の度肝をぬき、メディアも手放しで称賛した!

また、2009年2月20日(金)、東京芸術劇場で開催された東京佼成ウインドオーケストラ第100回定期演奏会(指揮:秋山和慶)でも演奏された。

かのアメリカ空軍ワシントンD.C.バンドなど、海外バンドもつぎつぎとレコーディング!!

『セレブレーション』。それは、作曲家スパークのマスターワークとなった!

▲▼東京佼成ウインドオーケストラ“法燈継承記念特別演奏会”チラシ

▲同、プログラム表紙

▲スパーク「セレブレーション」スコア

「■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第57話 スパーク「セレブレーション」ものがたり」への1件のフィードバック

  1. 大好きな曲です。
    佼成、セントオラフ、アメリカ陸軍、イギリス空軍、ネヴァダ大
    等々聴いてきましたが、
    昔ラジオで放送してくれた佼成のヨーロッパ公演の演奏が
    一番しっくりくるのでまだ大事に聴いています。
    CDにして欲しかったなあ。

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