▲CD – ピース オブ マインド(佼成出版社、KOCD-3569)
▲フレデリック・フェネル(1991年10月、パルテノン多摩)
『今、同じ時代に生きる作曲家の作品をレコーディングすることが、とても重要なことなんだ。』
1991年10月24日(木)~25日(金)、東京・多摩丘陵にあるパルテノン多摩大ホールで行なわれた東京佼成ウインドオーケストラのCD「ピース オブ マインド(Piece of Mind – Contemporary Mix)」(佼成出版社、KOCD-3569)のレコーディング・セッション直前、フレデリック・フェネル(Dr. Frederick Fennell)が、笑みを浮かべながら筆者に語りかけたひと言だ!
この時、マエストロは、すでに77歳。しかし、その目は、まるで若者のようにキラキラと輝き、全身にエネルギーが漲っているようだった。
フレデリック・フェネルが、東京佼成ウインドオーケストラの招きに応じ、初の客演指揮を行なったのは、1982年3月。このセッションから遡ること9年前のことだった。
この年、初顔合わせのフェネルは、まず、3月23日(火)~24日(水)、普門館で、アルバム「フレデリック・フェネル & 東京佼成ウィンド・オーケストラ」(佼成出版社、KOR-8103、LP)をレコーディング。ついで、3月27日(土)、新宿文化センター大ホールにおける第30回定期演奏会のタクトをとった。
そして、フェネルの十八番ともいうべき、クリフトン・ウィリアムズ(Clifton Williams)の『交響組曲(Symphonic Suite)』やヴァーツラフ・ネリベル(Vaclav Nelhybel)の『交響的断章(Symphonic Movement)』、ジョン・バーンズ・チャンス(John Barnes Chance)の『朝鮮民謡による変奏曲(Variations on a Korean Folk Song)』など、アメリカのオリジナル作品を中心に収録されたアルバムは、たいへんな話題作となった。
その後、1984年に東京佼成ウインドオーケストラの常任指揮者に就任。
佼成出版社との間で精力的な録音活動をスタートさせ、<F・フェネルのウィンド・アンサンブル・シリーズ(Fennell’s Wind Ensemble Series)>と題する、以下のようなLPレコード計8タイトルを短期間に録音した。
・ファンファーレとアレグロ
(LP:KOR-8411 / 録音:1984年3月24~25日、普門館)
・ベル・オブ・ザ・ボール
(LP:KOR-8412 / 録音:1984年12月19~20日、普門館)
・セレナータ
(LP:KOR-8413 / 録音:1984年12月19~20日、普門館)
・メキシコの祭り
(LP:KOR-8414 / 録音:1985年3月19~20日、普門館)
・トッカータとフーガ
(LP:KOR-8415 / 録音:1985年9月25~26日、普門館)
・パリのアメリカ人
(LP:KOR-8416 / 録音:1986年4月23~24日、普門館)
・海を越える握手
(LP:KOR-8417 / 録音:1986年4月23~24日、普門館)
・リンカーンシャーの花束
(LP:KOR-8418 / 録音:1986年10月22~23日、普門館)
1987年からは、<F・フェネル・シリーズ(F・Fシリーズ)>とシリーズ名をあらためて下記のCDを録音。既発売の前記9タイトルのLPレコードも順次CD化された。
・シンフォニック・ソング
AMERICAN BAND CLASSICS
(CD:KOCD-3562 / 録音:1987年3月24~25日、普門館)
・イギリス民謡組曲
BRITISH BAND CLASSICS
(CD:KOCD-3563 / 録音:1987年11月24~25日、普門館)
・蒼き波の上のバッカス
EUROPEAN BAND REPERTOIRE
(CD:KOCD-3564 / 録音:1988年12月6~7日、パルテノン多摩)
・火の鳥/展覧会の絵
CLASSICS ARRANGED FOR BAND
(CD:KOCD-3565 / 録音:1989年10月23~24日、パルテノン多摩)
・ペール・ギュント
CONCERT REPERTOIRE 1
(CD:KOCD-3566 / 録音:1990年4月12~13日、新座市民会館)
・モーツァルト
GREAT WIND SERENADES
(CD:KOCD-3567 / 録音:1990年10月30~31日、IMAホール)
・ハンガリー狂詩曲
CONCERT REPERTOIRE 2
(CD:KOCD-3568 / 録音:1991年4月11~12日、パルテノン多摩)
また、同じ時期、コンサートのライヴ録音から作られていた<T.K.W.O.コンサート・シリーズ>にも、以下のようなフェネル指揮盤2タイトルを見い出すことができる。
・ロメオとジュリエット
(CD:KOCD-3311 / ライヴ収録:1986年11月28日、第39回定期演奏会、新宿文化センター / 1987年3月21日、第40回定期演奏会、新宿文化センター)
・第一狂詩曲
(CD:KOCD-3133 / ライヴ収録:1989年12月10日、Nonaka Special Concert、前田ホール)
佼成出版社は、「ピース オブ マインド」以前に、すでに18タイトルのフェネル指揮のアルバムをリリースしていたことになる。
そして、筆者も、同社の企画責任者、柴田輝吉さんから招かれ、「ペール・ギュント」以降、しばしばフェネル企画にかかわることになった。
話をアルバム「ピース オブ マインド」に戻そう。
最初、フェネルから、このアルバムのアイデアが柴田さんに持ち込まれたとき、彼は提案に“CONTEMPORARY MIX(コンテンポラリー・ミックス)”という英語タイトルを添えて提示している。
当時、佼成出版社からリリースされるアルバムのメイン・タイトルには、ごく初期の数タイトルを除いて、すべて曲名があてがわれていた。このため、我々には、この“コンテンポラリー・ミックス”が、まるでサブ・タイトルのように映る。
しかし、フェネルにとって、この英語タイトルこそ、彼のアルバム・コンセプトを表す最も重要なメッセージだった。
振り返ると、<F・フェネルのウィンド・アンサンブル・シリーズ>のLPアルバム当時も、共通英題として“The Heart of the Wind Ensemble(ウィンド・アンサンブルの心)”という文字がジャケットに印刷されていた。
しかし、アルバム制作がCDになって以降、フェネルは、曲名によるアルバム・タイトルとは別に、アルバムごとの英題をつけることも希望するようになった。
米マーキュリー(Mercury)時代の各アルバム・タイトルと同様に。
フェネルのそんな思いの込められたアルバム「ピース オブ マインド」には、つぎの6曲が収録された。
・ウィンド・アンサンブルのための「ピース・オブ・マインド」
(ダナ・ウィルソン)
Piece of mnd for Wind Ensemble(Dana Wilson)
・管楽器と打楽器のための「情景」
(ヴァ―ン・レイノルズ)
Sceans for Wind Instruments and Percussion(Verne Reynolds)
・舞踏組曲
(ジョーゼフ・ホロヴィッツ)
Dance Suite(Joseph Horovitz)
・シンフォニック・ウィンド・アンサンブルのための
「シンフォニア 第4番」
(ウォルター・S・ハートリー)
Sinfonietta No.4 for Symphonic Wind Ensemble
(Walter S. Hartley)
・吹奏楽のための「射影の遺跡」
(河出智希)
Stones in Time(Tomoki Kawade)
・冬の始まりのための「モーニング・アレルヤ」
(ロン・ネルソン)
Morning Alleluias for the Winter Solstice(Ron Nelson)
これら6曲で構成されるこのアルバムからは、第52話「ウィンド・アンサンブルの原点」でお話ししたフェネル指揮、イーストマン・ウィンド・アンサンブル初のアルバム「アメリカン・コンサート・バンド・マスターピーシーズ(American Concert Band Masterpieces)」(LP:米Mercury、MG40006、モノラル、1953年録音)と同じテイストのアグレッシブな選曲コンセプトが感じられる。
英語の“コンテンポラリー”には、“同時代の”とか“当今の”“現代の”という意味がある。音楽の世界では、しばしば“現代音楽”の代名詞としても使われる。
アルバムには、様々な現代性を見せる多彩な作品が収録された。
まずは、スーザ財団の“サドラ―賞1988”とアメリカン・バンドマスターズ・アソシエ―ション(ABA)の“オストウォルド賞1988”をダブル受賞した、当時の超注目曲、ダナ・ウィルソンの『ピース・オブ・マインド』。
それまで作品委嘱などしたことがなかったフェネルが、1988年11月の演奏旅行で宿泊した広島のホテルの部屋に差し込んできた眩いばかりの朝日で目覚めたときのすばらしい感動を、イーストマン音楽学校出身の作曲家ロン・ネルソンに直接会って話して委嘱。1989年5月14日(日)、中国家庭教育研究所が主催した「東京佼成ウインドオーケストラ広島特別演奏会」(広島厚生年金会館)で“広島市民に捧げる曲(For the people of Hiroshima – The piece dedicated for the people of Hiroshima)”という曲名でプログラムを飾り、フェネルの指揮で初演された『冬の始まりのための“モーニング・アレルヤ”』。
そして、1989年の東京佼成WO初のヨーロッパ公演(参照:第41話「フランス組曲」と「ドラゴンの年」)後、楽団がヨーロッパの作曲家3人に作品委嘱をした中で、もっとも早く完成し、1991年4月20日(土)、オーチャードホール(東京)における第46回定期演奏会でフェネルの指揮で初演されたジョーゼフ・ホロヴィッツの『舞踏組曲』。
これらに、ヴァ―ン・レイノルズ、ウォルター・S・ハートリー、河出智希の3作を加えたアルバム「ピース オブ マインド」は、正しく現代ウィンド・ミュージックの粋を集めたアルバムとなった。
こういうアルバムこそ、ウィンド・アンサンブルの提唱者フェネルにはふさわしい!
収録後のフェネルの充足感あふれる顔!
筆者にとっても、想い出深き1枚となった。
▲ネルソン「モーニング・アレルヤ」録音シーン(1991年10月24日、パルテノン多摩)
▲1991年11月12日の日付とフェネルのサインが入った曲順決定のメモ
「■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第53話 フェネル:ピース オブ マインド」への2件のフィードバック