音楽家の伝記映画はさまざまあるが、ジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)を描いた『アメリカ交響楽』(1945年/原題“Rhapsody in Blue”)は、特筆すべき映画である。なぜなら、ガーシュウィンの死後わずか8年目に製作されただけに、製作者も出演者も、ほとんどが、ガーシュウインを直接知っていたひとたちなのだ(ガーシュウインは38歳で夭折した)。主人公のガーシュウインをプロ俳優(ロバート・アルダ)が演じているほかは、多くが本人の出演である。
中でももっとも有名なのが、オスカー・レヴァント(1906~72)だろう。彼は、ホロヴィッツやルービンシュタインとならぶ、大人気ピアニストだった。ガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》や《ピアノ協奏曲》は自分のテーマ曲のようにレパートリーとしていた。その彼が、この映画への出演をきっかけに(もちろん、自分自身の役を演じた)、本格的なミュージカル俳優になってしまうのである。たとえば、映画『バンド・ワゴン』(1953年)の名場面、《ザッツ・エンタテインメント》を、フレッド・アステアなどと一緒に歌って踊っている、唇の分厚い、小柄なオジサン――彼が、オスカー・レヴァントである。