■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第25話 保科 洋「交響曲第2番」世界初演

▲保科 洋

▲広島ウインドオーケストラ第45回定期演奏会のチラシ

2016年4月28日(木)、筆者は、山陽新幹線を走る「さくら」で、一路広島を目指していた。

午後6時45分開演の広島ウインドオーケストラ「第45回定期演奏会 80歳記念 保科洋プロジェクト」を記憶にしっかりと留めさせるために。

会場の広島市西区民文化センターホールは、JRの山陽本線と可部線が分岐し、広島市民が“ひろでん”“しでん”と親しみを込めて呼ぶ広島電鉄の路面電車も発着する横川駅前ロータリーから歩いてすぐのところにある。座席数550(固定席)の中ホールながら、ステージ面が横に広く、かなり大編成のものまで対応できるホールだ。

横川到着後、チケットを押さえてもらっていた録音エンジニアの藤井寿典さんと合流し、2人でホールへと向かう。ロビーは、すでに開場を待つ多くの聴衆で熱気があふれている。

この日の指揮は、2011年以降、同ウインドオケの音楽監督をつとめる下野竜也さん。

題目に“80歳記念”とあるとおり、プログラムは、その少し前の1月31日に80歳の誕生日を迎えられた保科 洋さんの作品を中心に組まれていた。

第1部は、『交響的断章(改訂版)』(1972/1999)に始まり、東京藝術大学の同期でともに作曲の道を歩んだ盟友、兼田 敏の『嗚呼!』(1985)を間に挟み、『Lamentation to ─ (Theme and Variations)』(1999)に至る3曲構成、第2部は、広島ウインドオーケストラの委嘱作である『交響曲第2番』(2016)の“世界初演”がずっしりと存在を示す、重量感のある2部構成のコンサートだ。

この内、『嗚呼!』と『Lamentation to ─ (Theme and Variations)』は、“生きている内に互いの葬送曲を書いて贈り合う”という、保科-兼田の2人の約束から生まれた作品だった。

広島ウインドオーケストラのプログラミングアドバイザー、国塩哲紀さんの心憎いばかりの演出で、保科さんも、プログラムの挨拶文で、同氏への謝意を述べられている。

会場には、これまで保科さんが吹奏楽の世界に貢献されてきた年輪の深みの証しのように、氏の友人、知人、音楽関係者がつめかけている。作曲家の鈴木英史さんの顔も見える。

そして、会場に詰めかけた多くのファンの最大の関心事は、1996年に大阪市音楽団の委嘱で書かれた初の“シンフォニー”以来、20年ぶりに書かれた『交響曲第2番』の世界初演だった。

2015年に作曲に着手され、2016年2月に完成した入魂の一作で、演奏時間は、約30分。急 – 緩 – 急の以下の3楽章で構成される。

第1楽章:アレグロ・モデラート・エ・マエストーゾ – ヴィヴァーチェ
Allegro Moderato e Mastoso – Vivace

第2楽章:レント・ミステリオーゾ
Lento misterioso

第3楽章:アレグロ・コン・ブリオ
Allegro con brio

やがて第2部の開始が告げられ、プレイヤーに続いて指揮者が入場すると、期待のボルテージはもう最高調!

シーンと静まり返った中、タクトが振り下ろされ、ホルンが提示する勇壮なファンファーレ風の第1テーマがホールに鳴り響くと、そのあとはもう“保科ワールド”一色!

場内は、息をのむように聴き入り、音楽は、自由なソナタ形式の第1楽章~コラールと各楽器のソロが交錯する三部形式の第2楽章~激しく力感を伴った推進力ある第3楽章と展開していく。

時間のたつのが速い。

随所に散りばめられた“保科節”もとても魅力的だ!

こうして、高いモチベーションに裏打ちされた世界初演は、割れんばかりの拍手がこだまする文字どおりの大成功を収めた。

指揮者から促され、ステージに駆け上がる作曲者の足取りも軽い!!

そして、力強い握手!!

初演にかけた両者がリスペクトし合う、すばらしい瞬間だった。

作品のルーツをたどると、広島ウインドオーケストラが結成20周年という節目の年を迎えた2013年4月にまで遡る。

東京オペラシティコンサートホールにおける”結成20周年記念東京公演”をちょうど一週間後に控えた2013年4月14日(日)。それは、広島・アステールプラザ大ホールで催された第39回定期演奏会の終演後、多くの関係者が集った“広島ウインド20周年を祝う会”の席上、音楽監督の下野さんから保科さんへのひと言に始まった。

『広島ウインドのために交響曲を書いて下さい。』

初演指揮後に聴衆に向ってマイクをとった下野さんは、『この“無茶ぶり”に対して、保科先生はその場で“書きます”と言われたのです。』と、このエピソードを披露された。

新作誕生のとき、その場に居合わすことができ、その瞬間を作曲者や初演者と共有できることは、音楽に携わる1人として、これ以上ない幸せなこと。

初演後、いくつものプロフェッショナルたちの心を揺り動かし、つぎつぎととり上げられるようになった保科洋『交響曲第2番』初演のこの日。

それは、間違いなく日本のウィンド・ミュージックが世界に向けて打ち立てた金字塔であり、21世紀のマスターワークが誕生した瞬間だった。

▲広島ウインドオーケストラ第45回定期演奏会 – プログラム表紙

▲広島ウインドオーケストラ第45回定期演奏会 – 演奏曲目

▲交響曲第2番 – 作曲者によるプログラム・ノート

コメントを残す