■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第21話 ジェイガーがやってきた

▲LP – 第10回ヤマハ吹奏楽団特別定期演奏会(非売品、YB-1001)

『交響曲第1番(Symphony No.1 for Band)』の作曲者ロバート・E・ジェイガーが日本にやってきたのは、1975年のことだった。

この年、「昭和50年度 日本バンドクリニック(吹奏楽指導者講習会)」(主催:日本バンドクリニック委員会、日本楽器製造)のゲスト講師として招かれたジェイガーは、大阪(3/25~3/26)、名古屋(3/28~3/29)、東京(4/2~4/3)の3都市で開催された各2日間の日程のクリニックで、モデルバンドの東京佼成ウインドオーケストラを音のパレットに、自作を用いた“リハーサル・テクニック”や“フェスティバル・コンサート”で指揮を行なった。

▲昭和50年度 日本バンドクリニックの案内

ジェイガーは、このとき、すでに『シンフォニア・ノビリッシマ(Sinfonia Nobilissima)』が広く演奏され、日本でも人気作曲家となっていたが、クリニックで扱われた『交響曲第1番』や他の作品を通じ、彼の音楽の魅力を再認識した指導者も多かった。

(名古屋~東京の間には、福岡にも足を延ばしてクリニックを行っている。)

その後、4/6(日)、東京・日比谷公会堂で開催された「第10回ヤマハ吹奏楽団特別定期演奏会」にも登場。第3部で自作の『組曲第3番(Third Suite)』を客演指揮した。

このコンサートは、浜松のヤマハ吹奏楽団が初めて東京で行ったコンサートというだけでなく、ジェイガー以外にも、岩城宏之(指揮)、宮本明恭(フルート / NHK交響楽団)、戸部 豊(トランペット / 新日本フィル)、塚本紘一郎(サクソフォン / ニュークールノーツ)という豪華な顔ぶれが客演した、たいへん話題を呼んだコンサートだった。

▲第10回ヤマハ吹奏楽団特別定期演奏会の広告

注目すべきは、ジェイガーが臨席したこのコンサートで、原田元吉の指揮で『交響曲第1番』全曲が演奏されたことだ。

指揮の原田さんは、東京藝術大学在学中の1957年以降、NHK交響楽団テューバ奏者として活躍。1965年から1985年までヤマハ吹奏楽団の常任指揮者もされていた。

そして、幸いにも、作曲者が立ち会ったこの日の演奏は、ヤマハ音楽振興会によってライヴ・レコーディングされ、ヤマハ吹奏楽団の自主制作でレコード化(非売品、YB-1001)された。

「第10回ヤマハ吹奏楽団特別定期演奏会」と題するこのレコードには、第1部冒頭に演奏された『交響曲第1番』のほか、ジェイガー自身が指揮した『組曲第3番』第1楽章、この演奏会のために兼田 敏に委嘱された『交響的瞬間』の初演(指揮:原田元吉)、岩城宏之が指揮したリストの交響詩『レ・プレリュード』の4曲が収録されていた。

21世紀の現時点から見ると、これらは正しく“歴史的証人”的アーカイブだ。

幸いなことに、その後、CBSソニーが同じライヴ録音ほかを使ったアルバム「ヤマハ吹奏楽団イン・コンサート」(CBSソニー、20AG 195 / 1977.7新譜)を企画してリリース。

この日のライヴからは、ジェイガーの『交響曲第1番』、戸部 豊のトランペット独奏によるフンメルの『トランペット協奏曲』、塚本紘一郎のサクソフォン独奏によるフランシス・レイ / 岩井直溥編の『ある愛の詩』がピックアップされた。

▲LP – ヤマハ吹奏楽団イン・コンサート(CBSソニー、20AG 195)

マスタリング等の違いから、ヤマハ吹奏楽団の自主制作盤とCBSソニー盤のサウンドは、かなり違う。自主制作盤からは、マイクが拾ったナマナマしい当日の空気がダイレクトに伝わってくる一方、CBSソニー盤からは、ソニーらしく整音された立体感のある音が飛びだしてくる。

いずれにせよ、カップリングが違い、サウンドの好みの問題は確かに残るが、この2枚のレコードが、ジェイガーが臨席した時のこのシンフォニーの日本における最初期の姿を今に伝えることになった意義は、ひじょうに大きい。

ご承知のとおり、ジェイガーは、その後、クリニックで共演した東京佼成ウインドオーケストラの委嘱により、交響曲第2番『三法印』(1976年)を作曲。これ以降、自身も、1963年のシンフォニーを“Symphony No.1 for Band”と呼ぶようになった。第20話に登場する「Band Music Notes」(Revised Edition / Kjos、1979)に本人が書いたプログラム・ノートの曲名表記も実はそう変わっていた。

米Volkweinから出版されたときの英題は、確かに“Symphony for Band”。日本では、今でもオリジナル原題の邦訳にこだわる人も多いが、同じ作曲者の交響曲が2曲になってから相当な年月が流れ、そろそろ作曲者の意を汲んでいい時代になったのではないだろうか。

2017年12月16日(土)、JMSアステールプラザ大ホール(広島市)で開催された下野竜也指揮、広島ウインドオーケストラの「シカゴ ミッドウェストクリニック壮行公演 第48回定期演奏会」での曲名表記も『交響曲第1番』となっていた。もう大正解だ。

『交響曲第1番』は、さまざまな事情から、今では3種類の楽譜が存在する。

“温故知新”とは使い古された言葉だが、少なくともジェイガーのこのシンフォニーを手掛けられる際には、ぜひにもこの言葉を思い出していただければと思う。

▲広島ウインドオーケストラ「シカゴ ミッドウェストクリニック壮行公演 第48回定期演奏会」プログラム]表紙と曲目

 

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