■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言:第1話“ゾディアック・ダンス”と“グロリオーゾ”

Text:樋口幸弘

第1話“ゾディアック・ダンス”と“グロリオーゾ”

2017年の日本吹奏楽指導者クリニック(浜松)も間近かにせまった5月16日(火)の午後、クリニックのイブニング・コンサートに出演する名古屋芸術大学ウィンドオーケストラの練習にお邪魔した。

同大学大学院教授でウィンドオケの指揮にあたる竹内雅一さんとは、デハスケ・レーベル(ハル・レナード・MGB)のレコーディングがスタートして以来のつき合い。オランダ側プロデューサーの来日が叶わなかった年には、レコーディングのスーパーバイザーをつとめさせていただいたこともある。

この日は、クリニックで演奏するフィリップ・スパークの『ゾディアック・ダンス(Zodiac Dances)』とヤン・ヴァンデルローストの『グロリオーゾ(Glorioso)』の合奏が予定されていた。

 『ゾディアック・ダンス』は、大阪府の泉大津市吹奏楽団の結成50周年記念委嘱作。日本でもよく演奏される『祝典への前奏曲(Prelude to a Celebration)』につづく同団からスパークへの委嘱第2弾。初演プログラムに印刷された曲名は“ZODIAC DANCES/干支の舞”。作品名“ZODIAC DANCES”は、委嘱者の提案を作曲者が受け入れたもので、将来出版される楽譜には日本語の“干支の舞”も印刷して欲しいとの希望も出たが、そちらは叶わなかった。

“ホース”、“ドラゴン”、“タイガー”、“ラット”、“ドッグ”、“モンキー”と小題がつけられた6つの楽章で構成される愉しい組曲で、それらは楽団結成の1966年の干支である“午<うま>”に始まり、10周年ごとの各干支(“辰<たつ>”、“寅<とら>”、“子<ね>”、“戌<いぬ>”、“申<さる>”)にまつわる生き物(架空を含む)のキャラクターからインスパイアーされている。十二支をヒントとするが、日本的情緒を追い求めた作品ではなく、音楽的アプローチはあくまで西洋音楽。スパーク版“動物の謝肉祭”と言えなくもない。(初演:2016年11月20日、泉大津市民会館)

もう一方の『グロリオーゾ』は、シエナ・ウインド・オーケストラ第43回定期演奏会のための委嘱作。

ロシアの作曲家ドミトリ・ショスタコーヴィチ(1906~1975)へのオマージュとして書かれ、ヴァンデルローストが若い頃に多用した手法、すなわち作品に使いたいテーマ(この曲の場合は“ショスタコーヴィチ”の名前)のアルファベット表記のアナグラム(文字を入れ替えて別の単語を作る一種の言葉遊び)から導かれた音列やその派生的フレーズ、コードなどで作られている。委嘱当初はおよそ10分の作品という約束でスタートしながら、書いている内に熱が入って、結局は14分程度の序曲にスケールアップして完成した。近年の作品中、例外的にブライトであり、エネルギッシュなタッチで書かれている。(ラッパさんはとてもキツい!)

作曲中、2種類の曲名が考えられていたが、完成前に突然『どちらがいい?』と意見を求められたので、スコアから受ける音楽的なイメージから反射的に『グロリオーゾがいいね。』と答えたら、何日かすると本当に曲名に決まっていた。筆者としても最も親近感を覚える作品の1つである。(もちろん、シエナの面々には、初演を前にしたステージ上で“すいません”と詫びを入れたが・・・。)(初演:2017年2月11日、文京シビックホール、東京)

ともに“日本の演奏団体が委嘱し、作曲者の指揮で世界初演されたばかりの新作”というメッセージ性から、クリニックのステージでは長年ハル・レナード・MGBの録音を担ってきたステータスにふさわしい作品を取り上げたいとする竹内さんのリクエストにピッタリ。ちょうど来日中(前年11月)だった両作曲者に会ってその旨を伝えたところ、2人はとても喜んでくれて即座にOK。委嘱団体の同意も彼らがとりつけてくれた。

名芸の合奏では、両曲の初演に臨席し、作曲者から贈られた初稿スコアを持参していた筆者は、竹内さんに求められるままに、作品の背景や実際の演奏で起こったこと、その他要注意ポイントなどをアドバイスした。

すでに両曲はほとんど仕上がっていた。

浜松のステージは、間違いなくすばらしいものになるだろう。

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